『海中は 音に溢れた世界』

 

  海中には様々な音があることを初めて実感したのは、湖(富士五胡のひとつ、本栖湖)に潜った時だ。湖では自分が発する呼吸音以外、何も聞こえてこない。殆んど魚を見かけなかったことと、海ならば本来あるべき「植物の揺らめき」がなかったことが、そう強く印象付けたのかもしれない。暫くするとバディの呼吸音に気付いた。つまりは ダイバーが発する音以外、湖にはまったくと言っていい程に 音を感じられなかった。

  音も楽しみのひとつとなるのだ。それに気付かなかった自身の(視界ならぬ)聴界の狭さを知った。とても良い経験をしたと今でも思う。

  

  その点 海は大変賑やかだ。と言うよりは 音に気付く、気を配る様になった。

  伊豆大島・東伊豆近海では、時に潜水艦の探信音(ソナー音)や信号音と思しき音が複数聞こえて来る時がある。特に平日の 他のバディ(チーム)に音源となるものが無く、浮上後にビーチマスターに尋ねても、また 双眼鏡を使って周辺海域を見回しても、一切船影が見えないことが その根拠。おそらくは米海軍か海上自衛隊の何れかが、僚艦や漁船を仮想敵に見立てて 追っかけっこをしているのであろう。

 

  魚も『鳴く』。

  果たして本当に鳴いているのか、泣かせているのかは別問題として、捕まえたハコフグを耳元に近づけると「ブツブツ」と、また同じく マツカサウオは「キィーキィー」と鳴くのが聞こえる。

    * 耳朶を齧られない様に、注意。

  もっとも 『鳴き声』を聞くには 捕獲する知恵がないと‥。

 

  魚の群れも音を発する。

  マアジ程度の大きさでも一定の個体数(群れ)がダイバーの傍らを通り過ぎる時に 息を潜めて耳を欹てると、まるで風が通り過ぎて行くかの様な音が聞こえて来る。群れの流れの中に居られたら、確実に聞こえる。

  「そんな状況には出会えない」って? 状況[環境]は自身で、または バディ(チーム)との協力で造り上げるもの。群れの動きを予測する、或いは地形やエアカーテンを利用して群れの動きをコントロールすることは、然程 難しいことではない。しかし それなりの経験を積む、チャレンジすることが求められる。

 

  東伊豆・川奈沖の群発地震の際にも、結構 音が聞こえた。

  小規模な地震の場合は、川奈の方角の  しかも遥か遠くの水面方向から「ドォーン」と音が響いて来る。

    * 音の伝達速度の違いから 水中では発信方向が判り難いとされているが、その時は間違いなく、川奈方向からだと確認出来た。

  また ある時は水深10mに居て、水面方向から まるでタグボート並みの大型エンジンを空吹かししたかの様な爆音がした。

    * 以前、30数トンもあるテトラポットを何基も積んだ台船を引くタクボートの近くを潜った時と まったく同じだった。

  肌で音を感じる、そう、音を体感するセンサラウンドやボディソニックの様な、あんな感じたった。「まさか水面に船が‥」と思って反射的に水面方向を見上げたが、当然 船影などある筈もない。時計を見て、時刻を確認した。バディは初心者だったが、音(振動)を感じとった様だ。水中ノートに「地震発生」と書いてバディに見せたが、状況を理解できない風だった。浮上後に地震の有無を確認すると、同時刻に川奈沖で震度4の地震があったとのこと。

  大いに語弊はあるが、ある意味 地震もダイビングの楽しみのひとつとなる。

 

 

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