『トビエイと遊ぶ (解説編)』
ダイビングの楽しみ方も人それぞれ。「魚と遊ぶ」(とは言っても魚の思惑を無視した一方的な行為なのだが‥)も、そのひとつ。『トビエイと遊ぶ』とは、『トビエイに出来る限り接近して観察』、『牽制して逃亡を阻止』、時に『併走するが如く泳ぎ、牽制しながら 元居た位置に戻す』ことを完成形としたもの。
トビエイは日中 その多くがゴロタ近くの砂地、岩陰に頭を近付ける形で休んでいるので、それらしき周辺域を中層から見渡せば、発見はそう難しいものではない。発見したら 「砂地側の適正な方向から」「超低層遊泳で」「迅速に適切な間合いへの移動を完了」する。これらの内 どれかひとつでも適正さを欠くと、トビエイに離陸の機会を与える、または 追い立てることとなってしまう。
砂地側の適正な方向から‥、
陰となる岩は、トビエイから見て およそ1〜2時[10〜11時]の方向にある。
* 砂地側[沖]から飛来、岩陰に着底すると、自然とこの様な形となる。(推測)
因ってダイバーは、トビエイから見て10〜11時[1〜2時]の方向から接近を図る。
* 着底[静止]状態にあるトビエイは 切迫した危機的状況にならない限り、急速反転や岩を飛び越す様な急上昇は行わない。
* 食物連鎖、弱肉強食の世界では、後方から忍び寄るものは明らかに「敵」。全ての生物は、その警戒を常に怠らない。
超低層遊泳で‥、
通常 トビエイが中層遊泳することはない。着底していれば 尚のこと。だから トビエイにとっての「敵」は 上から襲って来るもの。同様に判断されないためにも、敢えて トビエイの行動に近い超低層遊泳で接近する。
迅速に適切な間合いへと移動を完了‥、
如何に速く泳げるトビエイでも、着底していれば 初速はゼロ。離脱に必要な加速を得るには 適当な離陸進路が不可欠。ダイバーがこの離陸進路に素早く干渉しなければ、トビエイの離陸を容易に許してしまう。
離陸進路をダイバーに塞がれ、或いは牽制されたトビエイは、新たな離陸進路を得ようと 鰭を使って その場回頭を始める。ダイバーはこの新たな離陸進路を牽制するため、間合いを詰める事無く 素早く移動しなければならない。
* たからといって 間合いが近くなり過ぎると、トビエイを急発進・急加速させてしまう。こうなると 最早ダイバーの泳力ではどうにもならない。
離陸したトビエイに対しては、体を以って その進行方向を牽制する。手先を伸ばしての牽制行動は 「敵」からの攻撃と判断され、トビエイの逃避行動を加速させるので 厳禁。体で対応するためにも、トビエイの表情を読み解き 迅速に移動出来ることが不可欠となる。
離陸して こまめな回頭を繰り返しての逃避行動の間、トビエイの遊泳速度を如何に抑えるかに因って、「併走するが如く泳ぎ、牽制しながら 元居た位置に戻す」ことが出来るか否かが決まる。
『併走するが如く泳ぎ、牽制しながら 離陸地点に戻す』とは‥、
最早トビエイが離陸し、その正面を抑えることが出来なくなった時点で、ダイバーは 低速で離脱して行くトビエイと並列遊泳を行う。そして、トビエイよりも体半分 前に進み出て、この位置関係を維持しつつ、トビエイに体を寄せることで その直進を直径20m位の円周軌道へと誘導する。
* トビエイの表情、自身とチームの現在位置を 同時に確認しながら行う。
これら一連の行動を バディやチームで行えれば、成功の確率は飛躍的に高まる。但し そのためには、十分な準備が必要となる。
* ミーティング、トレーニング、コミュニケーション、ブリーフィング、そして 実践経験。
それらを全て成し遂げることが出来れば、離陸したトビエイを元居た場所に再び着底させることも、そう難しいことではなくなる。それが出来たら、ダイビングは一層楽しいものとなるだろう。
そして この様なことを繰り返していけば、トビエイのダイバーにたいする警戒心は徐々に和らぎ、誰もが『トビエイと遊ぶ』ことの出来る、そんなダイビングポイントが誕生するかも知れない。
(最後に‥)、
トビエイの表情から、「何だよ」「煩っさいなぁ」 等といった、不貞腐れた風を感じ取ることできたなら、貴方は 『トビエイと遊ぶ の巻、免許皆伝』まで あと一歩。
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