『Mrs.ホンビノスのコンパスナビゲーション』
ラバーライン :方位基線。自身の正面に構え、その先端方向に進むための補助線。
マーカー :ベゼルに付属し、自身が進みたい方位を判り易くするための2本爪の目印。
コンパスを使う時は、磁針を常に水平に保持します。
(SUUNTO SK-7 の様な、方位がベゼル上に 右回り(時計回り)に表示されているコンパスでは‥)
コンパスナビゲーションと言えば、進路変更の度に『予め水中ノートに記載した方位(数値)、例えば方位300を ベゼルを回すことでラバーラインに合わせる。ダイバーは回頭して 磁北(▲)とマーカーを一致させながら、ラバーライン方向に適当な目標物を設定。それを拠り所として 飛び石状に進む』というのが一般的。
* コンパスを凝視していたら、潜水目的の達成も バディコミュニケーションも不可能です。
しかし ここお台場は 緩やかな勾配が続く単純な地形で、目立った目標物も無く、極度の視界不良で水中ライトが必須。研究用として デジカメ、採取用具 等も携帯・使用する。加えて 思考能力の低下する水中で、移動のための基本4方位(下記参照)を暗記に頼るのは あまりに無謀。さりとてその都度 水中ノートを取り出し 確認するのも面倒。そこで 以下の方法を採用します。
私たちが目にする、或いは 作成する地図の多くは、基本4方位の内 『北』を上にして描いています《左図参照》。この様な地図では 『北を基準として 右側に進めば東、左側に進めば西』と 誰でも分かり易い。例え 斜め方向に進む時でも、基本4方位が定まっていれば 理解し易い。
(実際 これをコンパスに当て嵌めてみると‥)
ベゼルを回して ラバーライン上に磁北を示す方位 0 をセット。回頭してマーカーと磁北(▲)を一致させると、自身は磁北(▲)を向きます。(ラバーラインの先は 磁北)
この状態から右に回頭してマーカーと東(E)を一致させれば、自身は東を向きます。(ラバーレインの先は 東)
反対に 左に回頭してマーカーと西(W)を一致させれば、自身は西を向きす。(ラバーラインの先は 西)
「これをダイビングのナビゲーションに当て嵌める」と言いたいところだが、ひとつ問題が‥。通常 ナビゲーションでは安全を第一に考え、『岸』を基準方位とすることが多いのだが、いつも『岸』が磁北(▲)側にあるとは限らない。寧ろ磁北(▲)側にないことの方が多い。だから 一工夫必要になる。
* 安全が担保されるのであれば 『岸』以外を基準方位に設定しても差し支えありません。(例、往復パターンの起点)
(これより先は、お台場を例に説明します)
お台場では 手前エントリー・エキジット地点(IN/EX)から正面砲台跡側が主な観察水域なので、《写真右側》の遊歩道側岸辺を基準方位とします。
水中において 遊歩道側岸辺に向かう方位は、300です。
* 手前ベース(基地)から砲台跡方向は、方位 210。コンパスの方位は右回りに値が大きくなるので、方位 210 の右直角方向にある遊歩道側に向かう方位が 210+90=300 であることは、コンパスを使えば ベース(基地)からでも 容易に確認できます。
* この基準方位は、備えとして地形略図と共に 水中ノートに記載します。
ベゼルを回して ラバーライン上に 遊歩道側の方位 300 をセットします。
その場で回頭して ラバーラインを方位 300 に合わせると、マーカーと磁北(▲)は一致します。
☆ こうすることで、『マーカーが、磁北(▲)に対して どの位置にあるか[マーカーが、コンパスのどの方向と一致するか]』で、『ダイバーが遊歩道に対して どちら側を向いているか』が判り、また 進路変更の度に ベゼルを再設定する手間が省けます。
(実際にやってみると‥)
※ 《左図》のコンパスは、ラバーラインを自身の正面に保持した状態(実際のダイバーの見た目通り)に表示しました。
水中において、以下の様に その場回頭すると‥、
1. マーカーと磁北(▲)が一致。(マーカーはコンパスの磁北(▲)側にある)
* ダイバーは遊歩道側を向いているので、これを維持することで 遊歩道側に進めます。
* 遊歩道は ダイバーの正面です。
2. マーカーと西(W)が一致。(マーカーはコンパスの西(W)側にある)
* ダイバーは砲台跡側を向いているので、これを維持することで 砲台跡側に進めます。
* 遊歩道は ダイバーの右手側です。
3. マーカーと東(E)が一致。(マーカーはコンパスの東(E)側にある)
* ダイバーはIN/EX側を向いているので、これを維持することで IN/EX側に進めます。
* 遊歩道は ダイバーの左手側にです。
4. マーカーと南(■)が一致。(マーカーはコンパスの南(■)側にある)
* ダイバーは沖側を向いているので、これを維持することで 沖側に進めます。
* 遊歩道は ダイバーの後ろ側です。
(追記)
これ以外にも マーカーと下記方向を一致させれば‥、
▲〜Eの間(北〜東) :遊歩道〜IN/EXの間(復路の浅水域方向)
▲〜Wの間(北〜西) :遊歩道〜砲台跡の間(往路の浅水域方向)
■〜Eの間(南〜東) :沖〜IN/EXの間(復路の深水域方向)
■〜Wの間(南〜西) :沖〜砲台跡の間(往路の深水域方向)
の各方向に進めます。
(注意)
1. コンパスには許容範囲があるものの、磁針を水平に保たないと、正しく磁北(▲)を表示しません。そのため使用中は 時々コンパスを《左図》の様に、水平方向に僅かに回転させて[ラバーラインを振って]、その際 磁北(▲)が常に一定方向を指していれば、コンパスの水平が保たれている証となります。
2. コンパスは地球の磁気に基づいています。そのため ダイバー自身やその他の原因によって 進行方向に対する横方向のズレが生じても、(対地球サイズなので)それを認識できません。
* 目立った目標物も無く 単純で緩やかな勾配のここお台場では、水深計を併用します。例えは 『水深が浅くなれば 遊歩道寄りに、深くなれば 沖寄りに』移動したことになります。また 『IN/EX方向に進み 水深が浅くなったら、岸に接近した』ことを意味します。
* コンソールにループホルダーを付けることで、コンパスと水深計のチェックが よりし易くなります。(下記参照)
7月31日(日曜日)
7月上旬は記録的な猛暑が続き、ここお台場では青潮が発生。この日の水質も 『麦茶にコーラ』の赤潮状態。透視度は 1m以下で、コンパスナビゲーションには最高のコンディション。
研究者にとって ナビゲーション技術は、必要不可欠。他人に頼ったダイビングの中で 自身のテーマを追い求めることなど、出来はしない。自身の思うままに潜ってこその目標達成‥、という訳での今回のトレーニング。
コンパスの使い方については 前文の雛形を事前に見てもらっていたが、書き手の考えが表し切れず、当然 受け手も不完全。百聞一見なのだが 双方とも忙しく、結局当日 陸上実習するも、水中での結果は自ずと知れたもの。
* 『陸上100%で水中60%の出来』が、ダイビングの常識。
研究者Mrs.ホンビノスには コンパスを内蔵したコンソールに ループホルダーを取り付け、これを指先に掛けさせた。これで左手の自由度を維持し、方位・水深の細かい確認や 浮力調整ができる様にした。貝の採取・撮影の際も、簡単に手放せて 邪魔にならない。
(前説が極めて長くなったので、この日の総評を‥)
1. コンパスが正しく保持されていない。結果 20キックサークル・四角形パターンでは、何れも 起点フロートから10m近くズレた。
自身の進行方向に対して ラバーラインが別の方向を向いている。やはり 扱い慣れていないことが、最大の理由。慣れ親しんだ道具でなければ、いざという時 役に立たない。次回までに慣れてもらう様にと、コンパスを貸し出した。
視界不良ではあるが 水中ライトで進行方向を照らし、あまりコンパスに固執せず、先を見ることも大事。
* コンパスを信じて 見えない進行方向を見ることが、直進の基本。
2. 呼吸が異常に早い。
特に キックサークルを交えた四角形パターンでは、キックサークルに併せて呼吸している。(初心者特有) とは言っても この『麦茶にコーラ』状態、平常心でいられる筈も無い。経験を積むしかない。
3. バディコンタクトは満点?
極度の緊張感の中、side by side を維持しようと コンタックトを続けたのは見事。たが 実は不安に駆られてこちらをチラ見していただけかも。(真相は次回ダイビングで明らかに‥)
‥本当にお疲れ様でした。
今回はお台場海浜公園のみとなったが、次回は青海北埠頭公園でも実施の予定。ロケーションの変化に対応出来るか、乞うご期待。
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