『地エビ・沖エビ (イセエビ)』

 

 

  漁師曰く、「イセエビには 地エビと沖エビがある」と。

  地エビとは 海岸線近くの比較的浅い水深の岩場に住むイセエビ。沖エビとは 遥か沖の深場に住み、日没と共に浅い岩場にやって来て、日の出前に沖へ帰るイセエビのことを指すそうだ。地エビと沖エビ、ホーム&アウェイ といったところか。

 

  両者には外観上、大きな違いがある。それは、脚。沖エビはその移動距離から 地エビに比べて脚が太くて長い。確かに 水揚げされたイセエビを比較して見ると、その違いは素人目にも分かる程。

 

  比較的水温の高い時期の新月の前後、前日からベタ凪の続く朝一番に潜り、岩場と砂地の境目を丁寧に観察して行くと、沖と岩場を行き来したであろう沖エビの足跡を見ることができる。実際 漁師はその周辺域で、足跡の軌跡と直角方向に刺し網を仕掛けている。

  確かに 海岸線近くの岩場に住むイセエビだけならば、漁期の途中で獲りつくしてしまうだろうし、第一 海岸線近くの岩場に そんな大量のイセエビが棲む場所はない。漁師は古くからの伝承や長年の経験に基づき、沖からイセエビがやって来ることを知っていて、その通り道の周辺域に刺し網を仕掛けていたのだ。

 

(ちなみに‥)

  イセエビ漁は 刺し網を夕方に仕掛けて、翌日未明に水揚げする。漁の公平性や資源確保のために、各漁協が日程や場所の当番制、網の数や長さ 等を規定している。

  漁期は 主に10月から5月まで。6月から9月までは繁殖のため禁漁となるが、その期間は地域によって若干異なる。伊豆半島では、主に5月中旬から9月中旬までが禁漁期間となる。

  更に 漁をするのは、新月の前後1週間(月の半分、15日程度)。満月の前後1週間は イセエビが月明かりを嫌い、不漁のため出漁を控える。海が荒れれば、当然 出漁できないし、未明の水揚げ時に雨が降ると思えば やはりダメ。真水に当たったイセエビは鮮度が落ちるとして、買手が相手にしてくれないからだ。

  漁で最も苦労なことは、刺し網に掛かったイセエビの取外し。傷ひとつ、脚1本欠けただけでも、その商品価値を失う。当日早朝の市場のセリに間に合わせるため、未明の水揚げにならざるを得ない。時間に追われるので 手子を多数頼まなければならす、その費用も嵩む。水温が下がれば 水揚げも減る。相応の水揚げが見込めなければ、自らの手間代はおろか 手子に払う手間代で身銭を切る破目に陥るので、出漁を控える。

  イセエビ漁が行われている水域でのナイトダイビングは、この様な『漁の合間』を利用して実施されている。

 

 

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