『安全管理』

 

 

  調査潜水の安全を確保する方法のひとつに 「ライン潜水」がある。先端、末端に 潜降、浮上ブイを備えたラインを沈め、各バディはこれを目印として、その左右で調査を行いながら浮上ブイ方向へと移動して行く。効果的な方法だか、これを取り入れても 参加する研究者や学生の安全は確保できない。「ライン潜水」に不備があるのではない。「ダイバーでない者」が潜るからだ。だから 何をやっても同じ(安全が確保されない)なのだ。

 

  多くの場合(いや、ほぼ全てと言ってもよいが) 即席バディからなるチームのブリーフィングは、リーダーの「何か質問は?」との問いかけに 何の発言も無く終わる。発言が無いのは 単にリーダーの説明、つまり 言葉の意味を理解したに過ぎず、それを実践できる訳ではない。だが 誰からも質問が出ないということは、世間一般の常識では「各バディはラインを軸としたコンパスナビゲーションが出来る」ことを意味する。そして リーダーは、このことだけを都合良く解釈する、何の疑問も挟まずに。これが第一の間違い。

  本来 ブリーフィングとは、部隊が作戦開始直前に行う最終確認、極些細な打ち合わせ程度が本来の姿。作戦を効果的に実行するには、各員に相応の適性と適度な訓練が必要となる。しかし 現行のダイビングには これが欠落している。リーダーは「誰もがこの位のことは 出来るだろう」と 何の裏付けも無い、言わば「噂」を信じる。「噂」は信じるものではなく、確かめるもの。リーダーは、大きなリスクを抱えたまま潜ることになる。

 

  次は 各バディだ。

  コンパスワークのひとつに 「コンパス・マーカーを より安全な方位にセットして潜る」という手法がある。例えば 初めてのポイントに潜る際でも、マーカーを予め 岸や浅水域方向にセットしておけば、もし現在位置や進行方向が判らなくなっても バディやチームを より安全に浮上できる水域へと 容易に導ける。

     * マーカーをセットせずに スレートや水中ノートに記録しておくだけでも良い。

  各バディはラインの左右で調査(観察、採取 等)を行いながら 浮上ブイ方向に進むのだが、彼らは研究者ゆえに 対象物を求めて ラインから大きく離れたり、時にはラインの反対側に移動したりする。そして コンパスを活用できず、ラインに戻れない場合が多々ある。

  例えば ラインを方位120に引いた場合、ライン左側で調査するバディは コンパス・マーカーを210、右側で調査するバディは30 にセットしてから移動、調査開始。ラインに戻る際は 磁北とマーカーを合わせるために回頭し、ラバーライン方向に進めばよい。

    * 当然 エントリー前に、スレートや水中ノートに ライン方位、リターン方位 等を記録しておくことは常識。

  だが 彼らは、これを知らない。スレートや水中ノートを携帯していない場合も多い。

  「ラインに戻れない、現在位置が判らなくなったら、浮上すればよい」との声もあるが、コンパスワークのこんな取るに足らないことすら知らない、出来ないバディが 安全に浮上出来るとは到底思えない。事故が起きなかったのは、単に幸運か偶然に過ぎず、これでは安全管理と呼べる代物ではない。

  知らないこと、分からないことは 教えて出来る様にすれば良い。但しそれを行うのは ブリーフィングの時ではなく、その場に臨む前に やっておかなければならないトレーニングにあたる。当然 トラブルも想定したものを、何度も反復しなければ 意味が無い。陸上でのシュミレーションすらしていないものが ぶっつけ本番の水中で出来よう筈も無い。だから 即席バディなど 在り得ないのだ。

 

  ADOW(アドバンスド・オープンウォーター)のCカードを持つ者ならば、誰もが知っていなければ、やらなければならない「潜水計画の立案、実施」、数多くの犠牲の基に生まれた安全確保の拠り所「ダイビングマニュアル」が 無視されている。個々の知識、技量の低さが、危険を招く。

 

 

 

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