『東伊豆でホタテガイ?!』

 

 

  ダイビングを始めて間もない頃、砂地でホタテガイの殻を見つけた。

  「東伊豆でホタテガイ?! んな訳ないよなぁ」と思いつつも、手に取ってみると 紛れも無くホタテガイの殻。大きさは、市販のものとほぼ同じ。

  「旅館の一品料理として出たホタテガイの殻を 客が面白半分に海に向かって投げ捨てたのだろう」と思い、その場をあとにした。

 

  そんなことをすっかり忘れた頃に、またしても 砂地でホタテガイの殻を目にする。そんなことが何度となく繰り返された。

  「東伊豆のゴミの不法投棄も相当なものだなぁ」と思い、以降 手に取ることすらなくなった。

 

  そしてある時、水深21m、飛び根の先、水底から50冂の岩の窪みに 淡いオレンジ色をしたホタテガイを見つけた。殻は僅かに開いており、その隙間から見える外套膜が まるで 微笑んでいる口元から覗く歯の様だ。

 

  ふと思い出した。敵に襲われたホタテガイが泳いで逃げることを。ホタテガイを刺激しない様に、そっと掴んで掌に載せた。相変わらず 外套膜が覗いている。殻を指先で軽く叩くと、ホタテガイが泳ぎ出した。その姿はまるで、髑髏(しゃれこうべ)がケラケラと笑っているかの様だ。遊泳時間は 僅か3秒。泳ぎを止めたホタテガイは ゆらゆらと砂の上に落ちて行った。殻は閉じ、外套膜はもう見えない。再び手に取り、指先で叩いてみたが反応なし。お疲れの様なので 貝を岩の窪みに戻し、約15分後に再度試すが反応せず。筋肉疲労は簡単には抜けないらしい。

 

  午後 本日2本目、またしてもホタテガイの処へ。殻が僅かに開いており、外套膜が覗いている。午前と同じく 掌に載せ、殻を軽く叩くと やはり泳いだ。数時間のインターバルは欠かせないらしい。

 

  後日 三度行ってみると、僅かに移動していたが居た。そして 強制遊泳。やがて連日の過酷な状況に耐えかねたのか否か、居なくなってしまった。

 

  地元漁師によると、かつてはイセエビ獲り用の刺し網に ホタテガイが時折掛かったそうだ。そして 殻の大きなものは、水神様を祭る神棚に捧げる榊の代わりとして供えるとのこと。近年は サザエは掛かるがホタテガイはまったく掛からなくなり、もし 殻の大きなものを見つけたら取っておいてくれ と言われた。

 

  でもあれって本当にホタテガイだったのだろうか。貝表面が淡いオレンジ色たったのが気にかかる。実は同類のヒオウギガイではないのか と思い、調べた。

 

  ホタテガイ (帆立貝)

    * 軟体動物門二枚貝網翼形亜網イタヤガイ目イタヤガイ科の1種。生息至適海水温から自然分布の南限は、日本海が能登半島、太平洋では東京湾以北とされている。ヒトデ等に襲われると、閉殻筋で力強く殻を開閉させて海水を吹き出し、泳いで逃げることができる。

  ヒオウギガイ (桧扇貝)

    * 軟体動物門二枚貝網イタヤガイ目イタヤガイ科の1種。房総半島以南に分布し、干潮線帯から水深20m位までの岩礁に 殻を足糸によって固着して生息する。殻の色は 赤、橙、黄、紫 など。

 

  足糸で固着されておらず、「泳いだ」ということは、やはりホタテガイ。しかし あれっきり、東伊豆で生きたホタテガイを見ていない。

  

 

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