『その昔、バブルのうねりがやって来た』

 

 

  1980年代後半から1990年代始め頃まで、日本はバブル景気に沸いていた。当然 ダイビングの世界も その影響を受け、何度目かのブームとなった。

  当時のバカ騒ぎぶりを、久しぶりに読み返した『Marine Diving』の内容も交えて 振り返ってみると‥、

    * そういえば、表紙のロゴは カタカナ表記(『マリンダイビング』)だった。

 

 

  ウエットスーツに蛍光色が登場した。確かに オレンジ、ピンク、イエロー等の 何れもカラフルな色を取り入れたスーツ姿の女性を目にする様になったが、足元を見ると 未だ豚足(黒の「マリン足袋」)も健在だった。

    * 初期のマリンブーツ。デッキシューズの様な滑り難い靴底が無かった頃、地下足袋の底を利用して作られた。足袋の様に先が二つに割れているので、後年「豚足」と揶揄された。

  ドライスーツが普及。定価は、14〜15万円。オート機能付き排気バルブは極僅か。

  ダイブコンピューターや3連コンソールが浸透したのも この頃。買い替え需要に業界も沸いた。

 

  ダイビング関連雑誌には 車の広告は勿論のこと、カーオーディオ(Pioneer Carrozzeria パイオニア カロッツェリア)の広告も載っていた。

    * カロッツェリアという言葉が懐かしい貴方は、ジュリアナ世代。

  マリンダイビングの裏表紙 または 表紙の裏(1ページ目)に、SEIKOがダイバーウォッチ(定価12万円)の広告を頻繁に掲載していた。器材特集ダイバーウォッチ欄には ロレックス 等、高価格帯の商品が多数掲載されていた。

    * 「腕時計は陸上用、水中はダイブコンピューター」と使い分けていたダイバー多数。

 

  海外ツアーも大盛況。年末年始のパラオでは ショップが企画するも宿泊先が確保できず、「ガソリンスタンドの2階で寝泊り」といった 行ってビックリのツアー続出。

 

  一部提携ショップで、丸井や西武のクレジットカードの使用が可能に。

    * 日本のクレジットカード各社とも VISA、Masterとの業務提携に必要な実績(発行枚数 等)を整えるために、異業種と連携を深めていた。

  特に西武は、系列のフィットネスクラブ「リボン館(現KONAMIスポーツクラブ)」で講習を開始するも程なく撤退し、某指導団体を買収。

    * 事故に伴うグループ全体のイメージダウンを避け、更に 顧客名簿を獲得した。

  他にも ブリジストンやYAMAHA が参入した。

 

  当時 国内のCカード発行団体は、確認されているだけでも 40以上。正確な数は、不明。

 

  ショップは、新規・新装開店ラッシュ。まるで雨後の筍状態。各ショップとも受講生に器材を売りつけ、講習が終わると放り出した。スタッフは限られており、新たなダイバーにツアーを提供するよりも、受講者に器材を売る方が利益が大きかったからだ。

    * ブームは怖い。年単位では 受講生(売上)が急増した様に見えるが、実は数年後の見込み客(売上)を先取りしたに過ぎない。まるで エコポイント実施時の家電量販店のように‥。やがてブームは去り、受講生が激減して器材販売(売上)は落ち込む。ならば ツアーで稼ごうと思っても、放り出されて行き場を失った元受講者(現ダイバー)のダイビング熱は とうに冷めていた。後に器材の量販店が林立し、ショップは更に窮地に‥。

 

  あるショップに 頻繁に顔を出すダイブマスターがいた。彼はある時、 レジでの清算風景に目を留めた。

  週末ツアー代金1名分×ワゴン車1台に客7名×月4回 = ”この商売は儲かる”と。

  「俺はショップの人気者」だから、当座の客は このショップから引き抜けばいい。時はバブル。ダイビングショップのオーナーとしてチヤホヤされたい小金持ちのオジサンに資金を出して貰えば‥。

  急ぎインストラクターになり、ここぞとばかりに出店した。ビルの1階、内装は豪華。スタッフも器材も充実。車も当然 新車。これで当初は 順風満帆だったが、やかて‥。

  前のショップで垣間見た清算風景に、様々な経費は見込んでいなかった。あれは売上であって、純利益ではない。

  次は 客の減少。経営素人の彼に、集客能力はない。前ショップでバカ話が受けたとて、それが営業[集客]に繋がる程 世の中は甘くない。お祭騒ぎに興じた客も、徐々に離れてゆく。更に ダイバーの「賞味期限」は すこぶる短い。引き抜いてきた客の何割かは、既に期限切れ間近。すぐにも切れる者も含まれていた。

  客の数が減れば、その人達が紹介してくれる新規客も減る。ショップが「勢い」を失えば、更にそれは加速度を増す。そして‥

 

  プールを完備した都市型ショップ、そして 一足早いペンションブームに触発されて ダイビングリゾートが林立。そして 客の要望に答えようと、テラスやジャグジー 等、多額の費用を注ぎ込んだ。

  マリンダイビングでも「リソートエンターテインメント」という特集記事を連載した。

    * 当然 カラーページ。しかし その内情は、「広告」。収入が見込めるおいしい企画。

  しかし 集客に大した効果は無かった。

  プールは 「底が滅法深い大浴槽」程度なので、講習(潜降・浮上)がやっとの大きさ。稼動率を上げるのが難しく、また それを有効活用するノウハウも持ち合わせていない。

  テラスやジャグジー 等に至っては、あくまでも各の願望であり、いざそれが具現化しても 客はその楽しみ方を知らないので、ただ見て「自分は施設の整った所に来たのだ」と満足するだけ。

    * 要するに この客の心理を理解して、当初から 設備費プラス維持費を捨てる腹心算をしていた、または それでも経営が成り立つ所だけが生き残ることとなった。

 

  これらは ほんの一部。

  あんなバカ騒ぎ、もう二度と来ないでしょうねぇ。

 

 

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