バックロールエントリーと言えば、頭から浮き上がれずに 水面をフィンキックして もがいている姿を思い浮かべてしまいます。この様な光景は初心者ダイバーに限らず MSDや現地スタッフ、DMやインストラクターにも当て嵌まることです。

 そこで 『美しく』を合言葉に、バックロールエントリーの『動作』と『チームエントリーの時間短縮』について お話致します。

 

 

『動作』

  体操競技(鉄棒、つり輪 等)の下り技として知られている『ツカハラ(月面宙返り、ムーンサルト)』は、空中で体を『後方2回宙返り、1回ひねり』させて着地します。

  同様にバックロールエントリーを解析すると、ブルワーク[舷牆]に腰掛けたダイバーは『水面上で後方半回転、水中で前方半回転』することで 水面に頭から浮き上がります。この一見不可解とも思える動きの基となる力(反転力)とは 何から生まれ、それを得るために ダイバーはどうすればよいのか。

  それは、《図A》に示すダイバーの沈降()に伴い フィン表が受ける水の抵抗です。これにより 体は青い矢印の示す方向に回転を始め、更に《図B》の様に 肺活量やBCDが受ける浮力により ダイバーは「美しく」頭から浮き上がることが出来る訳です。そして この反転力を生み出すだめに ダイバーがしなければならないことが 3つあります。

    * フィンには 水の抵抗を受け止められる構造(強度、大きさ等)が必要です。

    * 多くのダイバーが、反転力の不足分をフィンキックで補っています。

1. ブルワーク[舷牆]から勢いよく後ろに倒れてはいけない。

  エントリー準備が完了したら、尻を海側に突き出す様に ブルワーク[舷牆]に腰掛けます《図C》。この姿勢ならば 後方[海側]へ僅かに重心移動させるだけで、《図A》の様な理想的な入水が可能です。

   これに対して ブルワーク[舷牆]に浅く腰掛け、勢いよく後ろに倒れると、《図D》の様に体は(無意識に)開いてしまうので‥

    a フィン表が着水する前に肺活量やBCDが受ける浮力が作用するので、フィン表に水が十分に当たらず、十分な反転力が得られず足で 頭から浮き上がれません。(《図E》参照)

    b 仮にフィン表が受ける水の抵抗により 十分な反転力が得られたとしても、反転する際に「開いた体」が受ける水の抵抗は 《図A(閉じた体)》に比べて大きいので、反転は不十分となり 頭から浮き上がれません。

    c これに反応して(無意識に)足首も伸びてしまうので、フィン表に水が十分に当たらず 必要な反転力が得られません。

  また 体が開かなかったとしても、後方回転が強すぎれば‥

    d 体は「後方半回転」以上に回ってしまう(復元するための運動量が増える)ので、仮に十分な反転力を得られたとしても、反転不足で 頭から浮き上がれません。

2. 入水直前、膝を胸に引き付けて 視線をフィン表に置く。

  例え 心掛けていても、後方回転時に 体は開いてしまいます。そこで 体がブルワーク[舷牆]から落ち始めた時、意識的に膝を胸に引き付けます《図A》。こうすることで BCDとフィンとの距離は縮まり、肺活量やBCDが受ける浮力が作用する前に フィンが着水するので、十分な反転力が得られて 頭から浮き上がります。

    * 「膝を胸に引き付ける」と 足首は反射的に曲がるので、フィン着水時に 十分な反転力が得られます。(《図A・E》の足首を比較参照)

    * フィン表を見ようとすれば、人は無意識に 顎を引き、背中を丸めた姿勢をとります。これは「膝を胸に引き付ける」動きの助けとなります。

    * 「視線をフィン表に」 即ち 水面方向に定めることが、姿勢制御の拠り所となります。(その重要性については 後程‥)

3. 入水後、頭が水面に出るまで 2.の姿勢を維持する。

  上記1.2.からも分かる様に フィン表が受ける水の抵抗反転力の基であり、入水後のフィンキックによって 体が反転する訳ではありません。また 《図E》の様に 入水直後に体が開いてしまうと、反転時に体が受ける水の抵抗が増えて 反転力が失われ、頭から浮き上がることは出来ません。

  《図A》の姿勢を維持して 反転がスムーズに始まれば、

    1.上半身は肺活量やBCDが受ける浮力により 浮き易い

    2.足はフィンが受ける水の抵抗により浮き難い

  ので、水中において 頭が先に浮き上がり始めます。

 

 

『チームエントリーの時間短縮』

  以下の様な状況に出くわしたことはありませんか?

      ボートは潜降ラインのあるポイントに到着し、ブイに船首係留しました。潮流がある中、右舷船首付近にいたダイバーがバックロールでエントリーしましたが、天地が定まらない様で 水面をフィンキックしています。何とか顔が水面に出たところで、おもむろにスノーケルへの移行を始め、気か付くと 船尾付近まで流されていました。慌てたダイバーは船首係留ブイへの最短コースとして、右舷近くを泳ぎ始めました。泳ぐことに必死で、船上からの「エントリーの妨げになるから、ボートから離れて!!」との呼びかけにも まったく反応がありません。このダイバーが右舷側水面を通過する間、右舷側からのエントリーは 完全に滞ってしまいました。

      この様なことが左右両舷で、しかも 各ダイバーがバックロールエントリーを行う度に起こるので、全員が船首係留ブイに集合を完了したのは エントリーを開始してから10分後のことでした。

 

  こんな不都合は、『美しい』バックロールエントリーを習得した後に 「僅かな動き」を加えるだけで 簡単に解消出来ます。それは『入水後 頭が水面に近づいた時点《図B》で、体を伸ばして数回フィンキック』を行って 舷側からの離脱する方法です。

    * 伸身フィンキックによる水中移動

  「伸身フィンキック」を加えることにより ダイバーの浮上位置は少なくとも舷側から2〜3m離れた所となり、また 「過度な 水面の安全確認」からも解放され、後続エントリーが滞ることもありません。因って 乗船者全員がこの様に『美しく』実践できるのであれば、エントリーにかかる時間は大幅に短縮されます。

  また 潮流下で 船首係留ブイに集合する際は、「伸身フィンキック」の進行方向をやや船首側に向けて行うことで、水面移動距離の短縮[潮流による移動距離延長の防止]が図れます。

    * バックロール(後方への重心移動)時から 進行方向を制御することはできません。

  潮流による「水面移動距離の延長」を防ぐためにも 「スノーケルへの移行」は、水面移動[遊泳]中に行って下さい。

 

(トレーニング時の注意点

  ラッシュガード、スーツ、BCD、タンク、ウエイト 等、ダイバーがどの様な装備状態にあるかで 反転力(復元速度)は異なります。例えば ラッシュガードでトレーニングを行った場合、主な浮力は 肺活量のみとなるので、入水後 頭が水面に出るタイミングは BCD着用時よりも遅くなります。また水面からブルワーク[舷牆]までの高さによっても異なります。

  因って 「伸身フィンキック(を始めるタイミング)」は、水中における自分の姿勢や入水深度を確認した上で行う必要があります。それには (先に述べた)『入水時、視線をフィン表(水面方向)に定める』事(姿勢制御の拠り所)が重要となります。

    * よそ見をしながら、または目を瞑った状態で真っ直ぐ走ることが、とても難しいのと同様に‥。

 

(一斉バックロールエントリーの危険性)

  ダイバーが装着する器材の総重量は 20kg以上、体重を含めると 女性でも優に70kgを超えます。一斉バックロールエントリーのためと称して そんなダイバーが数名ずつ左右舷牆[ブルワーク]に腰掛ければ、船体バランスは 極めて不安定になります。

  もし アクシデントやフライング等で右舷牆[ブルワーク]の1〜2名だけが先に入水すれは、船体は左舷側に大きく傾きます。すると 反動で右舷側に残っているダイバーは左舷側に弾き飛ばされて ダイバー同士が衝突、また 左舷側に集中したダイバーの重さにより、最悪の場合 船が転覆する虞も出てきます。

    * アクシデント : 大きなうねり または 潮流・風・小さなうねり・係留索の張り 等の複合要因による船体の揺れ、エントリー直前の「待った!」の一言 等々。

  

   詳しくは、東京辰巳国際水泳場を利用しての

           『スキン&スクーハ゛・タ゛イヒ゛ンク゛練習会』 

                          に参加の上 質問して下さい。

 

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