スキンダイビング練習会での会話やホームページに寄せられた質問に答える形でスノーケル[シュノーケル]の使い方を説明致します。

 

 

1. 随分とシンプルなスノーケル[シュノーケル]ですね。それと 取付位置が他の皆さんと違いますが‥。

【取付位置】

  私が使っているスノーケル[シュノーケル]は、ダイブウェイズ SJ-?です(排水弁の無いタイプです)。そして ホルダーをマスクストラップのループ部分[左後頭部(左耳より後の位置)]に付けて スノーケル[シュノーケル]を保持しています。

  これに対して 殆どのダイバーはホルダーをマスクのすぐ左横[左側頭部(左耳より前の位置)]に付けています。

    * 以後両者を外観の違いから 前者を傾斜型、後者を直立型 と表記します。

 

  スノーケリング[シュノーケリング]中に発生するトラブルの大半は、管内に溜まった水を吸い込む「誤嚥」です。浸水を抑える方法のひとつは 開口部(空気の取入口)を水面からより高い位置に保つことですが、それは ダイバーの姿勢や顔の角度によって大きく変わります。では顔の角度も含めた、ダイバーが水面でよくとる姿勢・とるべき姿勢とは どの様なものでしょうか。

    * マスクを装着すると、視界は大幅に制限されます。鮮明に見えるのは、フレームの内側(ガラス面)のみです。

    * 目的である 海中生物の観察には、水面 および 水底方向の視界が欠かせません。

    * 他のダイバーや浮流物との衝突、クラゲとの接触 等を回避するためにも、水面方向の視界が欠かせません。

    * 体を水平に保てば 水の抵抗を最小限に抑えられるので、移動が楽です。

    * 水面下にある肺は 水圧を受けます。水深が深い程にその水圧は大きくなるので、深呼吸が難しくなります。

  これらの条件を満たすのは 『水面に対して 体は水平、顔(頭部)は前傾30度 を保つ』ことであり、この時 開口部(空気の取入口)を より高い位置に保てるのは 傾斜型の取付方法です。

    * 視線を上げれば水面方向()を、下げれば水底方向()を見ることができます。

    * 観察に夢中になるあまり、顔が水底方向を向くことはよくあります。こうなると直立型は開口部が水面により近づき、傾斜型に比べ 誤嚥のリスクが高まります。

    * 傾斜型ならば マスクストラップの張りを調整する際にも邪魔になりません。

    * スノーケル[シュノーケル]を傾斜型に保持するには ホルダーをマスクストラップのループ部分に付ける必要があるのですが、市販のマスクストラップカバーはその殆んどがホルダーを通せる様な構造になっていません。従って 自ら加工を施さなければなりません。

      また 一部のホルダーに関しても、マスクストラップのループ部分に上手く付かないものもあります。その際はシリコン または 合成ゴム製のホルダーをお使い下さい。

(余談)

  しかし、現状は未だに 直立型が主流です。これは、カリキュラムが更新されていないSCUBAダイバーが講習を担っているからです。

  今でこそ SCUBAダイビングでBCDの着用は常識ですが、当初はその考え方すら無く、また あまりに高価だったので普及しませんでした。そのため 水面における呼吸の確保は 専ら『スノーケル[シュノーケル]を使っての立ち泳ぎ』で、それに適した取付方法 直立型が当時の主流でした。

  70年代に入ると安価なホースカラー型BCDが普及し、同後半には『移動手段の補助』としての傾斜型取付がカリキュラムとして確立されました。しかし 現在に至っても尚 指導要領は更新されず、旧態依然(立ち泳ぎの補助具としての直立型取付)のままなのです。

  まさに 器材の進歩に対して カリキュラムが取り残された一例と言えます。

    * 直立型傾斜型に比べ 開口部(空気の取入口)からホルダーまでが長いので、ジャックナイフや水面・水中遊泳時に スノーケル[シュノーケル]が振動することがあります。これは、より流水抵抗を受けるためです。傾斜型に移行することで改善されます。

    * 近年愛好者が増えたモノフィンにおいても、傾斜型取付方法は有効です。

(注意)

  傾斜型に取り付けたからといって 浸水による誤嚥が完全に解消される訳ではありません。ダイバーには (顔の角度も含めた)自らの姿勢に連動する開口部(空気の取入口)の位置を考慮した呼吸が求められます。これを意識せず出来る様になるには、相応の経験(トレーニング)が必要です。

 

 

【マウスピースの銜え方】

  水中でマウスピースを銜える際に (母音「あ」を発する様に)口を大きく開くと、鼻翼(こばな)から口角へと続く「ほうれい線」が際立ち、ここからマスクに水が入ることがあるので‥

1. (母音「お」を発する様に)口を小さく開きます。

    * マウスピースを丸呑み出来る程に口を大きく開く必要はありません。

2. (口元とマウスピースの伸縮を利用して) マウスピースの両端で 左右の口角を交互に押し開き、口に含みます。

3. 突起(ペグ)を軽く噛みます。

4. マウスピースを包み込む様に唇をすぼめます。

(注意)

  マウスピースは ペグを噛む力ではなく、唇をすぼめることで保持します。

    * 参照 『ダイビング後に喉が渇く理由』

 

 

2. 最近スノーケリング[シュノーケリング]を始めたのですが、水面でむせることが度々あります。スノーケル[シュノーケル]に問題があるのではと 購入先に話をすると、快く新品と交換してくれたのですが、やはり むせてしまいます。このままだと スノーケリング[シュノーケリング]が怖くなりそうで‥

【呼吸について】

   スノーケル[シュノーケル]を通して呼吸する際に、心得えておくべきことが 3つあります。

   ☆ どれほどクリア(管内排水)を行おうとも 必ず管内に水は残ります。

       * クリアについては、下記参照

   ☆ 水面にいる限り、当然 管の中に水は入って来ます。

   ☆ マウスピースを銜えた状態で唾液を飲み込むことは とても難しい。

  管内に溜まった水や唾液を誤嚥する事無く呼吸する、最善にして簡単な方法は、先に紹介した 『水面に対して 体は水平、顔(頭部)は前傾30度 を保ち』ながら呼吸することです。

  では何故これが最善の策なのでしょうか。

 

  テーブルの上にあるコップにお湯を一杯に注ぎ、それを手を使わずに飲む光景を想像してみて下さい。通常 顔はコップの湯面に対して約30度の角度を保ちつつ、火傷しない様に お湯を空気と共にゆっくりと吸い込んで口の中に含み、その後 飲み込むことでしょう。誰もがそうするでしょうし、この時に誤嚥して噎せる確率は非常に低いものです。

 

  お湯をプールの水や海水に、コップをスノーケル[シュノーケル]に置き換えると、《左図》の様に 管内に相当量の水が溜まっていても、顔(頭部)を水面に対して30度に保ち、ゆっくり空気を吸い込めば、水は口の中(舌先あたり)に留まるので 誤嚥する事はありません。(一度 お試し下さい)

    * こうして深く吸い込んだ空気を使って クリア(管内排水)を行います。

        + クリア :肺一杯に吸い込んだ空気を 一気に口から吹き出すことで、管内に溜まった水や唾液を排出すること。

    * 『水面に対して 体や顔(頭部)を直立させる』、『不用意に空気を吸い込む』 等すれば 管内に溜まった水や唾液は 容易く口内に入るので、誤嚥のリスクは高まります。

 

 

3. 排水弁の無いスノーケル[シュノーケル]を使っています。先日 クアムでのスキンダイビング中に 現地スタッフから「このタイプはクリア(排水)が重いから、浮上後はマウスピースを口から離すと楽ですよ」と言われました。確かにその通りなのですが、他にもっと見栄えの良い方法はないものでしょうか。

【クリア(排水法) ?】

  (既にご承知のこととは思いますが‥)クリアとは、《左図》の様に 顔を水に浸けた状態から 肺一杯に吸い込んだ空気を力強く吹き出すことで、管内に溜まった水や唾液を排出することです。それ程難しいことではないのですが、中には上手くクリアの出来ない人もいます。空気を吹き出す勢いが弱いのです。この様な場合には、肺一杯に空気を吸い込んだ後、

   A.テーブルの上に置いた 空のペットボトルを一気に吹き飛ばす様に、

   B.(お風呂やプール等で)口元を水に浸けた状態から 気泡で大きな音を立てる様に、

 力強く吹き出す練習をすることで、クリアを体感・習得して下さい。

 

【クリア(排水法) ?〜置換法】

  現在は排水弁付きのスノーケル[シュノーケル]が一般的で、私が使っている「ダイブウェイズ SJ-?」の様な 排水弁の無いタイプは極めて少数派です。そのため これから説明するクリア『置換法』(replacement の直訳)「(別名)ショットガン」を知っている人は 絶滅危惧種並みの存在でしょう。

☆置換法 (replacement)

 0. 排水弁無しスノーケル[シュノーケル]傾斜型に取り付けます。(上記参照)

    * 排水弁付きでは、この排水方法は使えません。

※「スキンダイビングで浮上を開始する」ところから話を始めます。

 1. 水面の安全を確認すべく、顔を水面方向に向けて(顎を上げて)垂直に浮上します

    * この姿勢により スノーケル[シュノーケル]を上下反転させます(開口部を下に向けます)。上下反転が不十分だと 水を排出できません(下記参照)。

    * この姿勢で スノーケル[シュノーケル]を確実に上下反転させるために傾斜型を採用しています。(直立型では 高い確率で失敗します。)

 2. 顔が水面に達する直前に僅かに空気を吐き、スノーケル[シュノーケル]内の水を排出します。

    * スノーケル[シュノーケル]に吹き込む空気の量は、その内容量を僅かに上回る程度で構いません。

    * 水中で 管内にある水をとダイバーの呼気に置き換える(置換する)だけなので、一般的なクリアの様に 強く吹き出す必要はありません。

    * クリアを行うタイミングがよく分からない場合は、浮上に際して水面方向に上げている腕の肘部分が 水面に達したタイミングでクリアを行うとよいでしょう。

 3. 顔(頭部)が水面に達したら 素早く顎を引いて、開口部(空気の取入口)を水面上に出し、顔(頭部)を水面に対して30度に保ちながら 深呼吸を行います。

 4. 素早く水面休息姿勢をとり、次の潜降に備え 呼吸を整えます。

  スノーケルの中に溜まった僅かな水をクリアする際にも、『開口部(空気のt取入口)を水につけて‥』 『水面休息姿勢から体を左回転しながら[右肩を下げながら]‥』 『スノーケル[シュノーケル]全体を水に沈めて‥』等 を行えは、排水弁の付いているタイプよりも楽にクリアが行えるという利点もあります。(一度お試し下さい)

    * いずれの形も水中で 管内にある水をダイバーの呼気に置き換えることでクリアを行っています。但し 開口部(空気の取入口)を上に向けた状態では、水と空気が十分に置き換わらないので、「強く吹く」従来通りのクリア方法が求められます。ご注意下さい。

  この様に 排水弁の無いタイプで置換法を行えば 排水弁の付いているタイプよりも少量の空気で簡単にクリアができるのですが、それには相応のトレーニングが必要です。

 

  置換法は、別名「ショットガン(shot gun)」とも呼ばれています。これはクリアを行う際の顎を引く(頭を縦に振る)動きが、クレー射撃等で使用されるショットガン(散弾銃)の実包装填(銃身を折り曲げる動き)に似ていることから来ています。

 

 

(余談) スノーケル? シュノーケル? どちらが正しいの?

  シュノーケル(schnorchel)とは、第二次大戦中にドイツが開発した 潜水艦用通風・排気装置を表すドイツ語です。これに 英文法の現在分詞 -ing を付加して「シュノーケリング」と表記するのは、「言葉が曖昧で、英語至上主義」の日本的表現と言えます。

  SCUBA関連器材メーカーのカタログ内表記は、全て snorkel です。SCUBAがアメリカから波及したことを思えば、ある種 当然のことでしょう。

  まあ、外来語なんて どこの国でも概ねこんな感じでしょうから、敢えて正誤を規する必要はなく、各自がお好みで使えば良いのでは‥。

  因みに、ここでは どちらの言葉でも検索でヒットする様に併記しています。

 

  

 

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                                      scuba@piston-diaphragm.com