『レギュレーターを水没させてしまった‥』

 

 

  「ダストキャップを付け忘れたまま レギュレーターを水槽に入れてしまった。オーバーホールしたほうが良いですよね。」といったメールが結構来る。そんな時は、「深刻に考えなくても大丈夫。水没させたからといって、即オーバーホールが必要という訳ではありません。」と答えている。

 

  左の写真は、簡易型コンパスを併設した毛細管式水深計。本体円周には 片方が塞がれた細い管が嵌め込まれており、その内部は空気で満たされている。これを水中に沈めると、周囲圧の増加に伴い、管の中にある空気の体積は小さくなる(即ち 管の中に水が浸入する)。目盛りは 管の開口部から「ボイルの法則(気体の体積は周囲の圧力に反比例する)」に基づいて刻まれていて、水圧により 水が管のどこまで浸入したか(空気と水の境目が管のどこにあるか)で その時の水深を知ることが出来る。浮上すれば、管の中に浸入した水は空気の体積復元により 排出される。「ボイルの法則」を理解していれば、自作も可能な程の 極めてシンプルな作りとなっている。

    * 「水から上がったら 毎回水抜きをする」ということはない。

  ただ欠点として (目盛りを見れば分かる様に)水深が深くなる程に目盛りの間隔は狭くなるので、深深度の精度に欠けること。そして 水中で衝撃が加わると、管内の空気が流出したり、空気と水との境目が曖昧になる場合があること。

    * こうなってしまうと、水中で補正することは出来ない。また 深深度・低精度の点からも、浅深度ダイビングやスキンダイビング用として使われた。

 

  ダストキャップを付け忘れて水槽に入れたレギュレーターとは、ある意味これに似た状態と言える。大して深くもない水槽に数分間浸け置いた位で、レギュレ−ター内部の奥深くまで 水は浸入しない。仮に極少量の水が浸入・残存しても、レギュレーターは腐食し難い素材が使われている。

    * 耐候性にも優れた合成ゴムやシリコン、ABS樹脂 等も併用。金属部分の大半は銅合金で作られている。細部にまで メッキ等の表面処理が施されており、気密部分も海水に接する部分も、その品質は同じ。つまり 気密部分への水の浸入(水没)は レギュレーター表面への水の付着と同程度のことなので、乾かせば良い。

        + 仮に 気密部分に海水が浸入し、適切な処置をせずに その塩分が結晶化でもしない限り、レギュレーターに不具合が生じることはない。

  浸水に気付いた時点で 素早く残圧タンクに取り付け、中圧系については セカンドステージをフリーフローさせる、インフレーターを作動させる 等して簡単に排出処理できる。特にタンク内の空気は 外気よりも遥かに乾燥しているので、水分除去には最適。

    * 高圧系については、『高圧ホース』の項 参照のこと。

 

  仮に ダストキャップを付けていたとしても、「ヨークスクリューの締め付けがあまい」 「強く締め過ぎたため ダストキャップが変形して気密性に欠ける」等すれば、浸水は起こるし、その痕跡は オーバーホールしたレギュレーターの中に 数多く見られる。これらが その直前まで何の問題も無く 使われていたことからも、『水没』がレギュレーターにとって 大して害にならないことは明らかだ。

    * 「ダストキャップが付いているから大丈夫」と思っているからこそ、洗浄水没に気付くことは難しい。ならば毎回 洗浄の仕上げとして レギュレーターを再び残圧タンクにセットし、その残圧で (内部乾燥用として)セカンドステージやパワーインフレーターをフリーフローさせれは、不安は解消される。

  それでも「尚 心配だ」「常に万全を期したい」という方には、(作業そのものに利点は無いが)心の平穏を得る対価として、オーバーホールすることも方法のひとつ。

 

  一時期 残圧表示機能を持ったダイブコンピューターやホースレスタイプの残圧計が流行った。これらデジタル機器については 特に心配する向きも多いが、それは水没後の心配よりも レギュレーターを水没させない心配りで、トラブルの発生を予防して欲しい。これはアナログ残圧計についても同じこと。

 

 

 

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