合成ゴム製の高圧ホースをよく見ると、等間隔に小さな穴(ピンホール)が開いていることに気付きます。高圧ホースが劣化して 内部に亀裂や損傷が生じると、このピンホールから『気泡』が出てきます。

  たまには水中で、自ら またはバディで確認してみては如何ですか。非常に細かい気泡が連続して出ていたら、その高圧ホースは交換時期と言えます。

    * タンク圧200気圧で行います。

    * ある程度の期間 使用したホースの中には、加圧後1〜2分 気泡の出て のちに止まるものがあります。これは適用外です。

    * 近年は高圧ホースに使われている素材も多様化して、ピンホールの無いタイプもあります。

 

『高圧ホースは 定期的に交換しないと破裂する』と脅かされていませんか?

  高圧ホースの圧縮空気流入口は、ピンホール程の大きさです《左図》。こうすることで、『タンクバルブの急激な開放に伴う 高圧ホースの破裂』のリスクを軽減しています。また このピンホールにより、仮に高圧ホースが水中で破裂・破断した場合でも 流出空気量を抑えることができるので、その時点でタンク残圧が50気圧以上あれば 確実に水面まで浮上することが出来ます。

    * 当然 緊急事態ですから、浮上速度超過はやむを得ない事であり、安全停止も無視します。

  とは言え ダイビング中は空気の消費に伴い ダンク内圧が徐々に低下していくので、余程の不手際でもない限り 水中での高圧ホースの破裂は考え難いことです。 

 

『ダストキャップを付け忘れたレギュレーターを水槽に浸けてしまった。高圧ホースやエアモニター(残圧計)内部に水が浸入して不具合が生じる』という事はありません。大量に水が浸入する筈がないからです。

    * 但し 古いタイプのレギュレーターや高圧ホースはその限りではありません。

  高圧ホース内部は、常に空気で満たされています。更に《左図》の様に レギュレーター(ファーストステージ)および 高圧ホース共に 空気の通り道は、ピンホール程度の大きさです。長くて数分 水に浸けた程度で、内部の空気を押しのけて 高圧ホース内に水が浸入することはありません。仮に浸入したとしても、ファーストステージのホースポート止まりで済みます。

  「水没させてしまった、心配だ。」という方は、(タンク残圧を利用して‥)

    1. 高圧ホース、ホースポートプラブを取外したファーストステージを残圧タンクに取り付けた後、タンクバルブを開き 水分を除去する。併せてホースホート内にも空気を吹きかけて乾燥させる。

    2. 残圧計スイベル部を外して 高圧ホース内部を乾燥させる。

        * 作業に際しては 部内に《左図》の様な構成部品(スイベルステム)が入っています。無くしたり 汚したりしない様に注意して下さい。

             (構成部品は 各器材によって異なります。)

(ちなみに‥)

  ダストキャップを付け忘れたレギュレーターを水槽に浸けた場合、レギュレーター(ファーストステージ)内部に水が浸入する可能性はあります。その際は レギュレーターを残圧タンクに取り付けた後 バルブを開き、各セカンドステージ・パージボタン および (中圧ホースを取り付けた)インフレーターボタンを作動させて、圧縮空気の流入・放出により 水分を除去して下さい。

 

(参考)

  ’80年代初頭までの高圧ホースは 現在用いられている合成繊維とは異なり、金属糸をホース状に編み上げること(スチールラジアル構造)で耐圧強度を確保していました。しかし その素材故に 『曲げ』に弱く、また 被覆が劣化すると 浸透した海水により腐食し易く、終には耐圧強度が低下して 破裂することもありました。しかし 腐食の根本原因は 被覆劣化を助長する取扱(ホースを過剰に曲げた)にあり、『水没』との因果関係はありません。ましてや素材が合成繊維に移行した現在なら尚のこと 『水没』が高圧ホースに悪影響を与える理由にはなりません。

 

レギュレーターを小さなバックに無理矢理押し込むと、高圧ホースは 小さな円を描く様に曲がります。

  元来 ホースは柔軟性に富む素材(合成ゴム)を用いて 真っ直ぐに作られているので、《左図》の様に曲げられたホースの外周側には 伸ばす力(青矢印)が、内周側には 縮める力(赤矢印)が働きます。

  多少強く曲げられても、ホースの外周側は 合成ゴムの特性として均等に伸びますが、内周側は均等に縮む事ができず、『皺』になります。そして 極端なホースの曲げ伸ばしが一定期間繰り返される内に 『皺』は『亀裂』になります。

    * 耐圧強度が要求され、中圧ホースよりも太くて硬い高圧ホースで多く見られる現象です。

  影響は被覆だけに止まらず、気密を保持している内部にも及びます。

 

現在 残圧計は水深計、コンパス、ダイプコンピューター等と共に計器コンソールに収められているので、高圧ホースの 特にファーストステージ接続部近辺にかかる負荷は より大きなものとなりました《左上イラスト参照》。高圧ホース保護のためにも 良質なホースプロテクターの取付をお勧めします。

    * プロテクターは、内側に溝のあるものをお勧めします。水抜けもよく、先に述べた『煙状の気泡』の確認も容易です。

 

ホースに無理な力をかけていませんか? 劣化を助長します。

  ホースの正しい取付位置については、

            『中圧ホースの取付位置』

  レギュレーターの正しい収納・保管方法については、

            『レギュレーターの収納・保管』 をご覧下さい。

 

 

 万問答集『什麼生、説破(そもさん、せっぱ)』に寄せられた問いにお答え致します。

そもさん!

  「亀裂のある高圧ホース」って、あとどれ位 使えるものなのでしょうか?

  「高圧ホースに生じた亀裂」って 人の体に例えれば、「擦り傷、切り傷、皸(あかぎれ)」みたいなものですよね。この程度の事で「筋肉、骨、血管」に直接影響があるとは思えないのですが‥。

 せっぱ! 

  高圧ホースは多層構造になっていて、ホースの表面は 耐圧強度を維持する部分を守るための『被覆』です。器材を長年使っていれば 擦り傷程度は当然つきますが、適切な取扱を行っているのであれば、千や二千の潜水本数で ホース表面に亀裂が生じる筈が無いのです。明らかに材質が向上した現在ならは、尚更です。

  それにも拘らず 被覆に亀裂が発生したということは、『長期に亘る不適切な取扱』が行われていたことの表れです。

    * ホースの取付位置、収納・保管方法、プロテクターの不備 等。

  これら(*)は実に「取るに足らない事」とも言えるのですが、それすら 長期に亘って対処しなかったということは、実は『ホースに致命的な結果をもたらす様な取扱』にも気付かず、ホースに大きな負荷をかけ続けていたと言えます。

    * これが亀裂の原因 ということも考えられます。

    * 『足が痺れる、痒い、臭い 等の些細な自覚症状が、実は生活習慣病の合併症による壊疽(えそ)が原因で、結果 足を切断した』 という症例もあります。

  『ホースに亀裂が生じた』ということは、『明らかな警告』です。因って 『あとどれ位使えるか』 と考えるのではなく、速やかに対処(交換)して 『今後この様なことが起こらない様、器材の取扱に十分注意を払う』 と改めることをお勧めします。

 

  ダイビングをする上で 『ホースの亀裂⇒破裂』というマイナスイメージを抱えている状態は、パニックという危険物の発火装置を持っていることと同じです。

    * 個人差はありますが、水中では 高圧気体による麻酔作用により、明らかに思考能力が低下します。陸上では簡単に解ける 2、3桁の計算(筆算)ですら 意外と手間取ります(一度 お試し下さい)。因って 些細なことが『パニックの引き金』になることがあるのです。

 

 

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