『アルキメデスの原理』

  水で満たされた水槽にタンクを沈めると、水が溢れ出します。この時 水槽の中にあるタンクは、溢れ出した水の重さと同じだけの そのタンクを浮かそうとする力浮力)を受けます。

  タンクの重さが 溢れ出した水の重さよりも重ければ、タンクは沈み[『沈む力』を有し]、軽ければ タンクは浮きます[『浮く力』を有します]。

 

 

SCUBAダイバーが装着するウエイト量』

  ダイバーが装着するウエイトを、プロテクションシステムが有する『浮く力』を解消するため と考えてはいけません。

    * スーツ(ドライならばインナーウエアも含む)、グローブ、ブーツ、フード(ベスト)等 一式。environmental protection system、環境からの保護(外傷予防・保温)システムの略。

  《左図》は、海水中にいる 『ウエイトを除く全ての器材を装着したダイバー』(以後「W無しダイバーと表記)を示しています。

  ダイバー自身と 彼が装着する各器材は、個々に浮力を受けます。この時 それらの幾つか(タンク、レギュレーター、ナイフ 等)は『沈む力』を有しますが、プロテクションシステムやダイバーの肺活量 等が有する『浮く力』の合計は 『沈む力』の合計を上回っています。

  このままでは 浮力過多で潜れません。そこでW無しダイバー適正潜降に必要な『沈む力』の不足分を補うために、相当量のウエイト赤矢印を装着します。

    * 安定呼吸下でのフィートファースト(feet fast)潜降。

  そのため ダイバー自身や個々の器材、携帯物について、その重さや体積が 前回のダイビングと大きく異なる場合は、ウエイトを調整(増減)します。

    * 調整には ダイビング経験や技能、ダイバーの心理状態 等も関係します。その詳細については下記をご覧下さい。

          ご存知ですか 『上手く潜降できない理由』

 

☆軽量素材を使った器材

  ここに ひとりのW無しダイバーがいます。彼が装着している器材の素材をステンレスや真鍮 等がら チタンやアルミ、強化フラスチックやカーボンファイバー 等に替えたとします。こうすると確かに 彼が装着する器材の総重量は軽くなりますが、器材はその機能性を保つため、必ずしも 大きさ(体積)を小さくできません。

  水中では如何なる物体も その体積に応じた浮力を受けます。「体積は変わらず軽くなった」器材を数多く装着したW無しダイバーの重さ青矢印は 素材変更前よりも小さくなりますが、受ける浮力は変わりません。そのため彼は従来通り 適正潜降するために、増量したウエイト赤矢印)が必要になります。

  つまり 器材に軽量素材を取り入れたからといって、ダイバーの装着総重量が軽減される訳ではありません。

 

☆タンクについて‥

  下の表は、主な200気圧充填タンクの『タンク重量』 『残圧200気圧時の総重量』 『浮力』 『各残圧における総重量と浮力との差(浮き沈み)』を示したものです。

(※ 理論値につき、実測値とは若干異なります)

タンク

タンク重量

           *1

総重量

      *2

浮力

       *3

タンクの浮き沈み

残圧200気圧時

残圧50気圧時

10L スチール

12.5kg

15.76kg

11.97kg

3.79kg沈む力

1.87kg沈む力

 →

13.0kg

16.26kg

12.04kg

4.22kg沈む力

2.30kg沈む力

 →

13.5kg

16.76kg

12.10kg

4.66kg沈む力

2.74kg沈む力

12L スチール

13.5kg

17.27kg

14.16kg

3.11kg沈む力

1.19kg沈む力

 →

15.2kg

18.97kg

14.38kg

4.59kg沈む力

2.67kg沈む力

10L アルミ

13.9kg

17.16kg

15.61kg

1.55kg沈む力

0.37kg浮く力

11L アルミ

(67.8 cu in)

14.2kg

(31.4 lbs)

17.72kg

16.75kg

0.97kg沈む力

0.97kg浮く力

    *1 :タンクに刻印されている本体のみの重量(例:W12.5)。タンクバルグの重量は 含まれません。

    *2 :タンク本体、タンクバルブ、空気(200気圧充填)の合計重量。「ブーツ無しアルミタンク」と比較するために、ここでは敢えて タンクブーツの重量を加算していません。

    *3 :上記 『アルキメデスの原理』 をご覧下さい。

 

  この様に 200気圧充填時のタンクは ウエイトを除いた器材の中でも 特に大きな『沈む力』を有するので、使用するタンクの素材や内容積によっては装着するウエイト量の調整が必要になります。

    * ウエイト量の調整は 『タンク重量』『内容積』『素材』の違いではなく、『各タンクの浮き沈み』の差を基に行います。

    * アルミタンクを基準に考えるならば、スチールタンクとは 『数kgのウエイト(錘)付きタンク』と言えます。

  そして 調整の目安となるのが、表中の『タンクの浮き沈み(残圧50気圧時)』の数値です。通常のレギュレーターは「オープンサーキットタイプ:開放型 (呼気を水中に排出する)」なので、表が示す様にダンク残圧の減少に伴いタンクが有する『沈む力』も減少します(* 一部タンクでは『浮く力』となります)。

  実際のダイビングにおいて タンク残圧が50気圧程度の時とは、安全停止や減圧停止等、「決して浮き上がりたくない」エキジット間際の浅深度です。

  この時の『ウエイトを含めた全器材を装着したダイバーの浮き沈み』が『沈む力』を有する様に、装着ウエイト量を調整します。

(注意)

  潜降に手間取るダイバーに限って、「○○さんのウエイトは αkg」とか「貴方 そんなにウエイトつけてるの」と言われた‥等、バディやメンバーとのウエイト量の差を気にします。仮に 体型や体質、ウエイトを除いた装着器材が全て同じだったとしても、装着するウエイト量が同じになるとは限りません。

  何故なら 『エキジット間際の浅深度』を考慮したウエイト量を装着しても、それは潜降に手間取る原因としての『浮力』の中の1つ『既存浮力』を解消したに過ぎず、残る『残存浮力』や『発生浮力』が解消されていないからです。

    * 既存浮力 :エントリー前に解消できなかった[既に存在する]浮力。

    * 残存浮力 :「BCDやドライスーツの排気不全」といった エントリー後がら潜降開始時に解消できなかった[残存した]浮力。

    * 発生浮力 :「フィンキック」や「呼吸(肺活量)」といった エントリー後から潜降開始時に発生した浮力。

 

  どの様な器材を使う場合でも タンク残圧50気圧程度の状態で適正潜降できるウエイト量が、そのダイバーにとっての最少ウエイト量となります。そして諸条件によって若干量のウエイトがこれに付加され、その総量が そのダイバーの適正ウエイト量です。

 

浅深度水域での適正ウエイト量”簡易”確認方法(10Lタンク使用時)

  (タンク圧200気圧時において‥)

  1. 装着ウエイトから2kg分(1kg×2個)を外して、バディに渡します。

      * 空気消費によるダンク残圧50気圧の状態を再現するためです。

      * 2?分外した後の 前後左右のウエイトバランスに注意して下さい。

  2. 携帯物を含む全器材を装着したら バディと共にエントリーの後、水深3〜5mの水域で 適正潜降を試みます。

      * 適正潜降できれば、2kg分外す前のウエイト量は適正です。

  3. 適正潜降できない場合は、バディから1?受け取って BCDポケットに収納して再度適正潜降を試みます。

      * 適正潜降できれば、2kg分外す前のウエイト量+1kgが適正です。

  4. これを繰り返して、そのダイバーの適正ウエイト量を確認します。

   2kg分(1kg×2個)以上のウエイトが必要になると予想される場合は、予めバディが複数量のウエイトを持参して確認作業を補助します。

   潜水計画に支障を来たさない範囲内で、確認作業を行います。

   あくまでも簡易確認方法です。『残存浮力』や『発生浮力』の是正・解消は含まれておりません。

 

  

『スキンダイバーが装着するウエイト量』

  10L・200気圧充填スチールタンク(以後「スチールタンク」と表記)を使って適正潜降(上記参照)しているSCUBAダイバーがいます。この時のウエイト量をそのまま装着してスキンダイビングを行うと、ウエイト不足により 潜ることが難しくなる場合があります。それは何故か?

  総重量15.76kgのスチールタンクの浮き沈みは『残圧200気圧時』で 約3.8kgの沈む力、『残圧50気圧』では約1.9kgの沈む力を有しています。

    * 他のタンクに関する数値は、上記表を参照して下さい。

  当然 スキンダイビングではタンクを装着しないので、ジャックナイフ等のテクニックを用いても 明らかに『沈む力』が足らなくなります[浮力が勝ります]。

    * 総重量17.16kgのアルミタンクの浮き沈みは『残圧200気圧時』で 約1.68kgの沈む力、『残圧50気圧』では約0.4kgの浮く力を有するので、スチールタンクに比べ その影響は軽微です。

  SCUBAダイビングの合間にスキンダイビングを行う際は、必ず装着ウエイト量を確認・調整して下さい。

 

装着ウエイトをスキンダイビングに適した量に調整する際は、以下の内容を考慮します。

  1. 安定した水面休息姿勢の維持

     * 水面での安全・休息を確保される範囲内で ウエイト量を調整します。

  2. ジャックナイフの完成度

     * 効率良く潜れなければ、楽しさは半減します。無理なく浮上できる範囲内で ウエイト量の調整を行います。

  3. 目的水深

     * 周囲圧の増加に伴い プロテクションシステム(上記参照)の体積が減少するので、深く潜れば ダイバーの『沈む力』は浮力を上回ります。『植生生物等の観察に際して体を安定させる』 『環境負荷軽減のためにも 水底との接触を極力避ける』等も考慮した上で、無理なく浮上できる範囲内で ウエイト量の調整を行います。

  4. 潜水目的

     * ライトや撮影器材等を持つと ジャックナイフが不安定になり、潜降が難しくなります。また 観察や撮影時の安定を図るためにウエイトを調整する場合でも、無理なく浮上できる範囲内で行います。

 

 

 

                   ☆ ご意見・ご質問等ございましたら、下記アドレスまでお送り下さい。

                                    scuba@piston-diaphragm.com