タンクのバルブが開いた状態で セカンドステージを落とした、ぶつけた、または パージボタン[フェイス]を深く押したりすると、『オーバーフロー[フリーフロー](意図せぬ中圧空気の連続放出、出っ放し)』が発生する場合があります

  その時 貴方は、どの様に対処していますか?

  ここでは、「発生のメカニズム」と「正しい対処法」について説明致します。

 

 《左の写真》は、フェイス[カバー]を外したセカンドステージです。

    * 各レギュレーターが採用しているシステムにより内部の構造は若干異なります。

 《左下に示したイラスト》は、セカンドステージの断面略図です。

 

 

【内部構造】

   ダイアフラム  : シリコン製。容器に密着固定され、セカンドステージ内部をA室B室に分けています。A室B室の間に圧力差が生じると、素材特有の柔軟性を生かして、A室B室が同圧になる様に 一定範囲内で動きます[変形します]。

 デマンドレバーダイアフラムの動きを『てこ(梃)の原理』を用いてデマンドバルブに伝えます。

 デマンドバルブ : デマンドレバーに連動して 中圧空気の放出・遮断を行います。通常は 内部にあるスプリングの張力により、中圧空気の放出を抑えています。

 

 

【発生のメカニズム】

☆ 《左図内》の『点線→実線』は、ダイアフラムデマントレバーの動きを表しています。

☆ 圧力とは、単位面積の上にかかる重さです。空気には 0.00128?/Lの重さがあるので、圧力を作り出します。この空気の圧力を「大気圧」と言います。

 

  セカンドステージを何かにぶつけると、内部にあるダイアフラムは大きく振動します。この時 ダイアフラムが所定の位置からB室側に動くと、その動きはデマンドレバーを介してデマンドバルブに伝わります。

  するとバルブが開いて中圧空気が放出されると、その影響で B室内には空気の流れ(気流が発生じます。

 

  枠の内側の図は 空気を一粒の固まりに見立て、それが持つ圧力(押す力)の内、ダイアフラムに作用するものだけを表したものです。

  陸上において A室B室は共に空気で満たされているので、ダイアフラムを押す力(AB)はつり合っています。

  そして先に説明した一連の動きにより B室内に気流が発生すると、そこにある「空気の粒」は他方向《図の中では側面方向》から力を受けます。結果 気流発生前と異なり、B室側からダイアフラムを押す力BA大気圧)よりも小さくなります

 

  この様に A室B室の間に圧力差が生じると、ダイアフラムB室側に押されたまま元に戻れません。この状態はデマンドレバーを介してデマンドバルブに伝わります。結果 バルブは開いたままとなるので中圧空気の放出は続き、それが更なる気流を発生させるので、オーバーフロー[フリーフロー]は延々と続きます。

 

☆ B室内に発生した空気の流れ(気流)により ダイアフラムが押され続ける現象は、飛行機の翼に生じる『揚力』と同様のものです。

 

 

【正しい対処法】

  中圧空気の放出が止まらない という状況を断ち切るには‥、

     1. B室内に生じた気流を抑える、流れの向きを変える

     2. ダイアフラムを所定の位置に戻す

 といった方法を考えることでしょう。

  殆どのダイバーは意識せずに 2.を選択して セカンドステージを振ったり叩いたりするのですが、大きさが直径7〜8cm程のダイアフラムとはいえ、そこには飛行機を空中に浮かせる『揚力』と同様の力が作用している訳ですから、振る・叩く等といった行為でダイアフラムを元の位置に戻すことは 非常に難しいと言えます。(はっきり言って無理です)

  そこで デマンドバルブから放出される中圧空気の大半が通るマウスピースを掌で塞ぐと、B室内に発生していた気流に乱れが生じる、または 行き場を失った放出空気により B室内の圧力が元に戻る)ので、ダイアフラムの両面に生じていた圧力差は無くなります。

  これにより ダイアフラムは所定の位置に戻るので、デマンドレバーと連動するデマンドバルブからの中圧空気の放出は止まります。

    * 放出された空気の最終出口であるマウスピースを塞ぐ事ができるのであれば、掌に拘らずどの様な方法でも構いません。

        + 口に銜える、腕や体に押しつける 等。

    * 水中では、マウスピースを水底方向に向けることでも止まります。

 

 

全てのセカンドステージにおいて この様な現象が起こる訳ではありません。デマンドバルブの形式やスプリング張力の強弱、ダイアフラムの形や厚み、デマンドレバーの形状や重さ、B室内に発生する気流の向きや強さ 等々、これらの単独 または 複合要因により 『発生し易いもの・し難いもの』があります。

    * 『発生し易いものは 欠陥品、調整不良』という訳ではありません。オーバーフロー[フリーフロー]の発生は、その大半が『ダイバーの取扱上の不注意』によるものと言えるでしょう。

  大事なことは、水中での呼吸を確保してくれるレギュレーターの取扱に細心の注意を払い、常にセカンドステージをリカバリーしておくことです。

    * セカンドステージを落としぶつけ、それが原因で生じたオーバーフロー[フリーフロー]を止めると称して 更に叩くなんて、とんでもないことです。この様な行動は、自らの知識[トレーニング]不足を吹聴しているのと同じです。ご注意下さい。

    * 参考  メンテナンス(器材の維持・管理)

            『シェアエアセカンドステージの保持』

 

 

(追記)

  保持(リカバリー)されていないシェアエアセカンドステージ(オクトパス、セーフティセカンド)が、エントリー時にオーバーフロー[フリーフリー]することが時折あります。これは《左図》の様に、水圧によって ダイアフラムB室側に移動したことがきっかけです。

  水中で発生した場合は、マウスピースを水底方向に向けると 速やかに空気の放出は止まります。その後 セカンドステージの向きを変えながら B室内を水で満たせば、オーバーフロー[フリーフロー]は再発しません。

  予防には、セーフティプラグ(オクトパスリテーナー)が最適です。

    * 参照 : メンテナンス 『シェアエアセカンドステージの保持』

 

 

 

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