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(備考)

  デマンドバルブは、スプリングの張力を利用して シリコンや合成ゴム、合成樹脂製のバルブシートを取り付けたピストンを空気吐出口(オリフィス)に押し付けることで圧縮空気の遮断を、離すことで放出を行います。

  圧縮空気を遮断している時、ピストンは上流[高圧]・下流[低圧]双方から その運動方向に圧力(矢印)を受けます。その圧力とは 吐出口に差し込んだに作用するものと同じです。

    * ここでは その圧力差を差圧[→] と表記します。

  デマンドバルブには、アップストリーム型ダウンストリーム型があります。

  アップストリーム型ピストン《図A》は 上流[高圧]側に開くので、 圧縮空気を放出するためにピストンを移動させる際には 差圧[→]が負荷になります。

    * ここに外開きの玄関扉があるとします。風の強い日には普段より大きな力をかけなければ 扉が開かないのと同じです。

  これに対してダウンストリーム型ピストン《図B》は 下流[低圧]側に開くので、差圧[→]は負荷になりません。

    * 但し バルブを閉じて気密を保つ際には差圧[→]の影響を受けるので、アップストリーム型よりも大きなスプリングの張力を必要です。

 

1. 時に『ファーストステージにアンバランスダイアフラム式を採用しているレギュレーターでは、タンク圧が減少すると中圧値[一次減圧値]が高くなります。』という話を聞きますが‥

 

  左下のイラストは、ある水深における アンバランスダイアフラム式ファーストステージの断面略図です。

    * 参照 : 『レギュレーターの基本構造と作動原理 ?』

  ダイアフラム式ファーストステージのデマンドバルブは、アップストリーム型《図Aです。

  ダイアフラムには 周囲圧室側からは『スプリングの張力[←]』+『周囲圧(大気圧+水圧)[←]』が、中圧室側からは『中圧室内圧[一次減圧値][→]』+『差圧[→]《図A参照》』+『スプリングの張力』がかかっています。

    * 差圧は、プッシュロッドを介して ダイアフラムに伝わります。

    * 実際にピストンが圧力を受ける面積は 《左図》とは異なり とても小さいのですが、《図A・右側からかかる》中圧値が10気圧前後であるのに対して 《図A・左側からかかる》高圧値(タンク残圧)は最高200気圧もあるので、その差圧[→]は無視できません。

  中圧空気の消費に伴い タンク圧が減少すると、『差圧[→]』は小さくなります。すると ダイアフラムにかかる『中圧室側からの全圧力』は『周囲圧室側からの全圧力を下回るので、ダイアフラム中圧室側に移動(=プッシュロッドを介してピストンは移動、高圧空気が中圧室内に流入します。

  結果 タンク圧が減少すると、中圧値[一次減圧値]は周囲圧室側からの全圧力』に対して、『差圧[→]の減少分 当初の値より高くなります。

    * 左二図ではこれらを、《タンク圧の減少に伴い『差圧[→]』を小さく》、また《ピストンの移動に伴う高圧空気の流入による『中圧室内圧[→]』の増加を色濃く[→]》表示しています。

  アンバランスダイアフラム式ファーストステージは ダブルホースレギュレーターや初期のシングルホースレギュレーターに採用されていましたが、現在は左図の枠内の様に 高圧空気の影響を受けない気密室を設けることで 『差圧[→]』の影響を抑える方式に移行しました。この気密室付きのファーストステージを『バランスダイアフラム式』と言います。

    * 『アンバランスダイアフラム式』とは 改良型(バランスダイアフラム式)と対比させるために 後につけられた名称で、アンバランス(タンク圧減少に伴う中圧値の上昇)を意図して考案された方式ではありません。

 

(おまけ 1)

  アンバランスダイアフラム式ファーストステージと比較される方式に『アンバランスピストン式ファーストステージ』があります《左図》。この方式のデマンドバルブは、ダウンストリーム型《図B》です。

  ピストンには 周囲圧室側からは『スプリングの張力[⇒]』+『周囲圧(大気圧+水圧)[→]』+『ピストンにかかる差圧[→]』が、中圧室側からは『中圧室内圧[一次減圧値][→]』が作用します。

  中圧空気の消費に伴い タンク圧が減少すると、『ピストンにかかる差圧[→]』は小さくなります。すると ピストンにかかる『周囲圧室側からの全圧力』は減少するので、ピストンを境に相対している『中圧室側からの圧力』 即ち中圧値[一次減圧値]は 差圧[→]の減少分 当初の値より低くなります。

    * アンバランスダイアフラム式とは逆の現象が起こります。

    * アンバランスピストン式ファーストステージは (アンバランスダイアフラム式と同様に)差圧の影響を受けない『バランスピストン式』に移行され、現在は採用されていません。

(おまけ 2)

  アンバランスピストン式ファーストステージと比較される方式として『バランスピストン式ファーストステージ』があります《左図》。この方式は 『差圧[↓↑]』がピストンの運動方向に対して作用しないので、中圧値[一次減圧値]は差圧の影響を受けません。

 

 

2. 『ファーストステージにアンバランスダイアフラム式を採用しているレギュレーターでは ダイビング開始時は呼吸抵抗を感じますが、ダンク圧が少なくなると 呼吸抵抗が減ります。』とは‥

 

  レギュレーターの吸気抵抗には、セカンドステージの構造が大きく係わっています。

    * 参照 : 『レギュレーターの基本構造と作動原理 ?』

 

セカンドステージにダウンストリーム型《図Bを採用している場合

  ダウンストリーム型《図B》では、ピストン にかかるスプリングの張力』+『下流側の圧力[←]』で 圧縮空気の放出を抑えています。

  アンバランスダイアフラム式ファーストステージでは、タンク圧の減少に伴い 中圧値[一次減圧値](=『上流側の圧力[→]』)は高くなります(上記参照)。この上昇分は 圧縮空気を放出するためにピストン を移動させる際の補助となるので、ダイバーの吸気抵抗は より小さくなります。

但し‥

  上流側の圧力[→]』が高まれば、フリーフローのリスクも高まります。メーカーはこれを回避するために、この上昇分を見越した より大きな『スプリングの張力』を設定しています。そのため 『ダイビング開始時に吸気抵抗を感じる』のです。

  そして確かに『タンク圧が少なくなると 呼吸抵抗が減る』のですが、注意すべき点は 『呼吸吸抵抗が減る』からと言って、この方式が他の方式よりも優れている訳ではありません。その点 誤解のない様に。

 

セカンドステージにアップストリーム型《図Aを採用している場合

  構造がダウンストリーム型《図B》とは反対なので、結果 吸気抵抗は増えてしまいます。しかし このことは、無視して構いません。

(何故なら‥)

  現在販売されているレギュレーターの中で、 セカンドステージにアップストリーム型バルブ《図A》を採用している器種はありません。

    * 過去においても極めて稀にしかありません。

  採用されない理由は、その構造的欠点にあります。

  もしファーストステージの合成樹脂製バルブシート(上図参照)が 破損や異物の噛み込み等により気密不全を起こすと 中圧値[一次減圧値](=上流側の圧力[→]』)は急に高くなるので、いかに梃子の原理を用いようとも 吸気でピストンを移動させて圧縮空気を放出することが出来なくなる(=空気が吸えなくなる)虞があります。更に中圧値が上昇すると 中圧ホースの耐圧限界を超えるので、プライマリー、シェアエア(オクトパス)、BCD、ドライスーツ 何れかの中圧ホースが破裂します。

 

アンバランスダイバフラム式ファーストステージとは‥

  ここに タンク圧が200気圧から50気圧に減少する過程で、中圧値[一次減圧値]が10%高くなるファーストステージがあると仮定します。このファーストステージの 高圧室内圧(タンク圧)が200気圧の時の中圧室内圧(中圧値)を10気圧に設定した場合、タンク残圧50気圧時の中圧値は 10%増の11気圧になります。(赤線)

  この様に 中圧値[一次減圧値]が高くなると セカンドステージ・ フリーフローのリスクや吸気抵抗の増加を招いてしまう(上記参照)ので、実際はタンク圧50気圧時で中圧値が10気圧になる様に設定します。(青線)

  つまり タンク圧200気圧時の中圧値[一次減圧値]は 設定値よりも10%低い90%(9気圧)という『設定値以下の状態』から、タンク圧の減少に伴い 100%(規定値 10気圧)に向かって徐々に高くなって行きます。(青線)

    * 実際の中圧値の変化量は、概ね10%を下回るものです。

 

(結論)

  『タンク圧が減少すると 呼吸抵抗が減る』というよりは、『タンク圧の減少と共に 規定の中圧値[一次減圧値]に移行するので、レギュレーター本来の能力(呼吸抵抗)を取り戻す』と考えた方が良いでしょう。

 

 

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