SCUBA(self contained underwater breathing apparatus :自給式水中呼吸装置)は、ダイバーの吸気に合わせて 必要な量の空気を常に周囲圧で供給します。これを可能にしているのが、レギュレーターを構成している ファーストステージ(一次減圧部)とセカンドステージ(二次減圧部)です。
ここでは バランスピストン式ファーストステージの基本構造と作動原理について イラストを交えて解り易く説明致します。
* 左の断面図は 圧縮空気の流れを説明するためのもので、実際の部品形状とは異なります。(末記参照)
【基本構造】
☆ ファーストステージの内部は、3つの部屋に分かれています。
高圧室 : 内圧は タンク圧と同じです。エアモニター用高圧ホースは ここに接続。
中圧室 : 内圧は 周囲圧の変化に連動します。セカンドステージやパワーインフレーター(BCD、ドライスーツ)用中圧ホースは ここに接続。
周囲圧室 : 上記二室とは異なり、常に周囲と繋がっています。室内にあるスプリングは、ピストンを中圧室側に押しています。
ピストン : 可動領域を持ち、その動きにより 高圧室から中圧室へ流入する圧縮空気の量を調整し、中圧室内の圧力を 周囲圧に応じて一定に保ちます。また O-リング(●)を用いることで 上記三室を分離しています。
【作動原理 (陸上)】
※ 《左図》および 文中[ ]内の矢印は、その向きで「圧力のかかる方向」を、大きさや数 色の濃淡で「圧力の強弱」を表しています。
1 陸上における周囲圧は、『大気圧』です。
ファーストステージをタンクに取り付けた時、その内部にあるピストンには 中圧室側からは『周囲圧(大気圧)[←]』が、周囲圧室側からは『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧)[→]』が作用しています。《図1》
* 高圧室と中圧室は繋がった[開放された]状態にあります。
2 タンクのバルブを開けると、タンク内の圧縮空気が(高圧室を経て)中圧室に流入し始めます[←2]。《図2》
* この時 中圧室内の圧力は『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧)[→]』よりも低いので、ピストンは周囲圧室側に移動しません。
3 圧縮空気の流入は続き、中圧室内の圧力は 更に上昇します。そして 中圧室内の圧力が『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧)[→]』よりも高くなる[←3]と、その圧力差により ピストンが周囲圧室側に移動《←》して、ピストンとバルブシート(HPシート)は密着します。
これにより 『高圧室から中圧室への圧縮空気の流入』は遮断されます。この時の中圧室内の圧力が「一次減圧値」です。
4 セカンドステージやパワーインフレーター等の使用により 中圧室内にある圧縮空気が消費されると、中圧室内の圧力は下がります。
この時 中圧室内の圧力[←2]は『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧)[→]』よりも低くなるので、その圧力差により ピストンが中圧室側に移動《→》して、ピストンとバルブシート(HPシート)の間に隙間が生じます。
これにより 遮断されていた『高圧室から中圧室への圧縮空気の流入』は再開されます。そして再び 中圧室内の圧力が『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧)[→]』よりも高くなる[←3](《図3》と同じ状態になる)まで、『中圧室内への圧縮空気の流入』は続きます。
☆ ダイバーの空気消費に伴い 中圧室内の圧力が下がっても、上記の様にピストンが振動《⇔》して圧縮空気が瞬時に補填されるので、中圧室内の圧力(一次減圧値)[←3]は『周囲圧(大気圧)[→]』に応じて 一定の高い値に保たれます。
* この値は、各器材によって異なりますが、概ね 9〜11気圧です。
【作動原理 (水中)】
5 水中における周囲圧は、『大気圧+水圧』です。
陸上であれば 《図3》の様にピストンを周囲圧室側に移動させた中圧室内の圧力[←3]も、水中では『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧+水圧)[→]』より低いので、 ピストンは周囲圧室側に移動しません。
この間 『高圧室から中圧室への圧縮空気の流入』は続き、中圧室内の圧力は 更に上昇します。
6 圧縮空気の流入は更に続き、中圧室内の圧力が『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧+水圧)[→]』よりも高くなる[←3]と、その圧力差により ピストンが周囲圧室側に移動《←》して、ピストンとバルブシート(HPシート)は密着します。
これにより 『高圧室から中圧室への圧縮空気の流入』は遮断されます。
☆ 水中における中圧室内の圧力(一次減圧値)は周囲圧の増加に伴い 陸上よりも高い値になりますが、この時の周囲圧と比較すると その値は一定に保たれています。
* 水中でも陸上と同じ様に吸気ができます。
周囲圧 |
陸上(水深0m) 1気圧 |
(水深10m) 2気圧 |
(水深20m) 3気圧 |
(水深30m) 4気圧 |
中圧室内圧 |
10気圧(仮定) |
11気圧 |
12気圧 |
13気圧 |
(備考) 周囲圧=絶対圧
中圧室内圧=ゲージ圧 (絶対圧−大気圧)
7 セカンドステージやパワーインフレーター等の使用により 中圧室内にある圧縮空気が消費されると、中圧室内の圧力は下がります。
この時 中圧室内の圧力[←2]は『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧+水圧)[→]』よりも低くなるので、その圧力差により ピストンが中圧室側に移動《→》して、ピストンとバルブシート(HPシート)の間に隙間が生じます。
これにより 遮断されていた『高圧室から中圧室への圧縮空気の流入』は再開されます。そして再び 中圧室内の圧力が『スプリングの張力[⇒]+周囲圧(大気圧+水圧)[→]』よりも高くなる[←3](《図6》と同じ状態になる)まで 、『中圧室内への圧縮空気の流入』は続きます。
☆ ダイバーの空気消費に伴い 中圧室内の圧力が下がっても、上記の様にピストンが振動《⇔》して 瞬時に圧縮空気が補填されるので、中圧室内の圧力(一次減圧値)[←3]は『周囲圧(大気圧+水圧)[→]』に応じて 一定の高い値に保たれます。
* この値は、各器材によって若干異なります。
セカンドステージ《赤枠内》は この一次減圧値に基づき、ダイバーの吸気に合わせて 必要な量の空気を常に周囲圧で供給するのですが、それについては 別項で説明致します。
☆ ちなみに バランスピストン式ファーストステージの実際の形状は、左図の様になります。
ピストンのシャフト部分はパイプ状に加工され、圧縮空気はここを通って中圧室内に流入します。
* アンバランスピストン式ファーストステージについては、こちらをご覧下さい。
(参考)バランスダイアフラム式ファーストステージ
ダイアフラム : シリコンまたは合成ゴム製。膜状で容器に密着固定され、二室(中圧室、周囲圧室)を分割しています。二室間に圧力差が生じると、素材の持つ柔軟性を利用して 二室が同圧になる様に 一定範囲内で変形します。
プッシュロッド: ダイアフラムの動きをデマンドバルブ・ピストンに伝えます。
デマンドバルブ・ピストン :
ダイアフラムと連動して開閉。高圧室から中圧室への圧縮空気の流入量を制限することで 中圧室内の圧力(一次減圧値)を周囲圧に応じて一定圧に保ちます。
構成部品がピストン式とは若干異なりますが、作動原理は同じです。
* 『基本構造と作動原理』について、また アンバランスダイアフラム式ファーストステージについては、こちらをご覧下さい。
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