スキンダイビングは、『エントリー』『水面移動』『直下潜降』『水中遊泳』『遊戯・観察』『垂直浮上』『スノーケルクリア』『エキジット』から成ります。ジャックナイフとは 直下潜降方法の通称で、ダイバーの動きが 折り畳み式ナイフに似ていることから付けられました。

 

 水中ではあらゆるモノが,それを水面方向に垂直に浮かそうとする力(浮力)を受けます。ダイバーがこれに抗しながら より簡単に潜る方法は、水面下で倒立(逆立ち)することです。そして これに最も適した準備姿勢が、【水面休息姿勢】です。

 

 

【水面休息姿勢】

 (動作)

  ▽ 水面で 身体をうつ伏せに横たえます。 両手・指先から両足・フィン先までを真っ直ぐに伸ばします。水平浮遊を安定させるために、両手足を僅かに開いても構いません。

    この姿勢を維持しつつ、二回 深呼吸して ジャックナイフに備えます。

 (注意点)

  ★ スノーケル[シュノーケル]の使い方については、こちら をご覧下さい。

  ★ (スーツ未着用時) ダイバーの体脂肪率にもよりますが、深呼吸の仕方によっては 頭が沈み、スノーケル[シュノーケル]は水没します[呼吸が出来なくなります]。まずは「沈まない呼吸法」として 『1秒で完全l呼気、1秒で完全吸気、2秒間 保持』をお試し下さい。

     * 秒数は、お好みで変更して下さい。

  ★ 主な浮力となる肺は上半身にあるので、多くのダイバーは 足[フィン]が沈む傾向にあります。その様な場合は 僅かにフィンキックを行うことで、足[フィン]を浮かせて 体全体を水平を保ちます。「脚の浮き沈み」具合を確認する方法として、 「脹脛が外気に触れている時の皮膚感覚(=脚は水平浮遊)」を利用します。

     * この確認方法は(下記内容にも当て嵌まりますが) 水着やラッシュガード着用時に限られます。スーツ着用時は、バディに水平姿勢の確認を頼んで下さい。

(補足)

  スキンダイビングやスノーケリング[シュノーケリング]中に起きる事故の大半は、誤嚥によるものです。初心者の多くは 本能的に『スノーケル[シュノーケル]での呼吸に対する不安』(誤嚥)から 顔を水面上に出そうと『立ち泳ぎ』をします。

     * 体を水面に対して、直立させる姿勢。

  実はこれが、誤嚥を更に助長します。直立姿勢では 顎を引いていると気道が狭くなり 呼吸し辛くなるので、人は無意識の内に顔を起こします[顎を上げます]。すると 管内に溜まった僅かな水分(唾液や海水)は 自然と口内に入るので、呼吸の際に誤嚥する可能性が高まります。【水面休息姿勢】は その名の通り、水面で休息する際の基本姿勢です。

 

 

 【水面休息姿勢】で二回深呼吸したら、開いていた両手・フィン先を真っ直ぐに揃えて 『倒立』に移ります。

 

【倒立】

    倒立とは、揺ぎ無い基礎の上に柱を立てることです。極めて軟弱な水面下に設けるそれとは、『指先から股関節まで』を股関節直下に移す(以後 「曲身」と表記)ことです。そしてこれを支えとして 曲げた体を真っ直ぐ元に戻し(以後 「伸身」を表記)、その際 水面上に上がった脚[足]の重さを利用して 体を水面に対して垂直に沈めます。

1.曲身

 (解説)

  ▽ 「曲身」を始めると、『(A)指先から股関節まで』 『(B)フィン先から股関節まで』は それぞれに水の抵抗を受けます。特に(B)は、股関節から離れた位置にあるフィンが より大きな水の抵抗を受けるので、(B)は水面付近に止まり、(A)だけを股関節直下(水面に対して垂直下)に移動します。《左図》

 (注意点)

  ★ 多くのダイバーが、潜降目標を【水面休息姿勢】時の顔下に定める傾向にあります。すると 《左図》の様に 「体の曲げ」が浅く[不十分に]なりがちです。潜降目標[視線]は 股関節直下に定めて下さい。こうすることで ダイバーは『姿勢制御の拠り所』を得られます。

     * 「よそ見しながら真っ直ぐ走るのは難しい」のと同じで、拠り所なくして垂直潜降するのは 至難の技です。

  ★ ダイバーにとっての鮮明な視界は、マスクのガラス面の先に限られます。また 多くのダイバーが、潜降目標を視界の中央(ガラス面の中心)で捉える傾向にあります。すると 《左図》の様に 「体の曲げ」が浅く[不十分に]なりがちです。確実な『曲身』を行うためにも、潜降目標を股関節直下に定め、それを上目使いに見て下さい。《左図》

  ★ 多くのダイバーは 「曲身」を指示されると、頭を振る[顎を引く]背中を丸める傾向にあります。すると 《左図》の様に 例え潜降目標を上目使いに見ていても、青の角度分 『曲身』が浅く[不十分に]なります《左図》。「曲身」では 顎を引く事無く、背筋を伸ばした姿勢を維持しながら、体を股関節から曲げます。

  ★ 「曲身」の際に スカリング(手で水を掻く)は必要ありません。ここで余計な動きを入れると、スムーズに潜れなくなります。

     * 詳細については、下記参照。

     * 矯正方法 :【水面休息姿勢】の後、先に両腕だけを潜降目標に向けて下ろし《左図》、それを追うように「曲身」を行います《左図》。小さな錘を握るのも有効です。体得できたら、本来の「曲身」に戻し、必要に応じて反復練習します。

  ★ 「曲身」を「屈身」と勘違いして 膝を曲げてしまうダイバーがいます《左図》。『曲身』はフィンが受ける水の抵抗を基に行っています。『(B)フィン先から股関節まで』が短くなれば 「曲身」の支えが不十分になり、『(A)指先から股関節まで』を股関節直下に移せません。「曲身」の際は、絶対に膝を曲げてはいけません。

   正しい「曲身(股関節を曲げる角度やスピード、視線)」を陸上で体感する方法があります。下記『陸上トレーニング』をご覧下さい。

2.伸身

 (動作)

  ▽ 視線と両腕・指先を股関節直下に向けたまま、「曲身」時と同じスピードで 体を真っ直ぐに伸ばします(以後 「伸身」と表記)。

 (解説)

  ▽ 「伸身」を行うと、『(A)指先から股関節まで』 『(B)フィン先から股関節まで』は それぞれに水の抵抗を受けますが、(A)のそれは (B)を遥かに上回るものです。そのため「伸身」を始めると (A)は現状を維持し、(B)が水面上に上がります。

    この時の脚[足]の重さを利用して、体を水面直下に沈めます。

 (注意点)

  ★ 先に述べた様に 『深い基礎(指先から股関節まで)』が「伸身」を成功させるカギです。「曲身」時にスカリングを行ってしまうと、両腕の分『基礎(A)が浅く[不十分に]なる』ので、脚[足]を十分に水面上に上げられません。【倒立】時のスカリング(手で水をかく)は、厳禁です。

  ★ 浮力は水面に向かって垂直に働きます。これに最小限の力で対抗する最善の方法が、『倒立』です。因って 『視線を股関節直下の潜降目標に定める』ことを怠れば、ダイバーは 姿勢制御の拠り所を失い、直下潜降は失敗します。

 

(よくある失敗例)

★ 【倒立】の際に 『前転する(半回転して仰向けになる)』 『水面直下に出来ない』ことがあります。これは、『潜降目標である股関節直下から目を離している』典型例です。

 

 

 【倒立】によって水面上に上がった両足の重さが、潜降を試みるダイバーの貴重な推進力になりました。ここで更にの推進力を加え、潜降をより安定させます。

 

【スカリング】

    * sculling : 両手[腕]、両足[脚]、または道具を使い、水を掻いて保持、推進すること。

 (動作)

  ▽ ここでは初歩的な平泳ぎの『両手[腕]の動き(水かき)』を用いています。潜降方向[直下]に伸ばした両手[腕]を、水をかきながら体側に移動させます。

 (注意点)

  ★ 『曲身』でスカリングを行ってしまうと、適時に推進力としてのスカリングが使えません。(内容が前後しますが‥)『曲身』では両手[腕]を、股関節直下に向け 真っ直ぐに伸ばします。

 (補足)

  ▽ 耳抜きは、この両手[腕]の移動途中 または 完了後に左右何れかの手を使っての「バルサルバ法」を、若しくは本人が必要と感じた時点で「咀嚼(そしゃく)する」「顎を動かす」等して 鼓膜の圧平衡を図ります。

  ▽ 耳抜きが上手くいかない場合は、直下潜降を中断して水平移動に切り替え、耳抜きが完了した時点で潜降を再開します。

 

 この様にして 更なる潜降推進力を得れば、例え ロングフレードフィンを履いていても、フィン先まで水中に沈めることが出来ます。

 

 

【フィンキック】

 (動作)

  ▽ 左右何れかの手が体側に移動した、または 耳抜きを始めた時点で フシンキックを開始します。

 (注意点)

  ★ 効率の良いフィンキックができれば 特に問題はありませんが、しいて挙げるとすれは その「タイミング」です。確かにフィンキックは最も大きな推進力ですが、それはフィン全体が水面下にある場合に限られます。【スカリング】完了前にフィンキックを行っても、ただ「空を切る」ばかりで 推進力は得られません。

 

 

今一度 上記内容の、主に(動作)を参照の上、「イメージトレーニング」を行うことをお勧めします。

     * イメージトレーニングは、ジャックナイフ習得の近道です。

 

 

『陸上トレーニング』

   宇宙に向かう多段式ロケットは 『姿勢の制御』 『次段ロケットへの移行のタイミングと、その確実な推進力』 これら全てが一致しない限り、地球の引力に抗して大気圏を突破する ことはできません。「ジャックナイフ」も同様です。

   特に『推力移行のタイミング』は重要です。一定のリズムを刻む様に体各部を動かして、初めて『浮力に抗して優雅に潜る』ことができるのです。

      * 動作移行のリズムは 各ダイバーによって若干異なりますが、リズムを遅く取る程に 潜降は難しくなります[各動作の完成度が求められます]。

   以下に示すのは、そのリズムを基に 上記 『ジャックナイフ』を陸上で体感するための模擬練習方法です。

      * マスクを着用しで行えば、水面・水中での視覚も体感できます。

 0.【水面休息姿勢】

     直立姿勢から右手を頭上に差し上げ、顎を上げて その指先に視線を「上目使いに」合わせます。そして この姿勢を崩すことなく 視線だけを下げます(「下目使い」に水平方向[模擬潜降方向(仮想水底)]を見つめます)

      * これは、直立[垂直]方向を水面に見立てています。

 1.【倒立】『曲身』

     先の上体を維持したまま、左手で左膝を触る様に「背筋を伸ばしたまま」前曲します

      * これは、視線の先[指先]方向を水底に見立てています。

      * 『右手・指先から股関節まで』は 一直線に保ちます。

      * この姿勢は 水中では難なく出来ますが、陸上では腰に負担がかかります。そこで左手を左膝に添えて 上体を支えます。こうすることで、体の曲げ(前曲90度)を体感します。

 2.【倒立】『伸身』

    視線を右手指先に向けながら、体を直立に戻します。

      * これは、視線の先[指先]方向を水底に見立てています。

      * 全身を一直線上に伸ばします。

 3.【スカリング】

    右手で「平泳ぎ」の様に「ひとかき」します。

      * これは、視線の先[指先]方向を水底に見立てています。

      * 右手は右体側方向に移動させます。

      * 視線は 頭上(模擬潜降方向)に向けたままです。

 4.【耳抜き】

    「ひとかき」した右手を鼻に移動させて「耳抜き」を行います。

      * 水中では このタイミングで【フィンキック】を始めます。

※ 上記内容を一定のリズムで、時々 左右・手を入れ替えて行います。

 

 

(補足)【垂直浮上】

 (動作)

 ▽ 水中遊泳の後 垂直浮上を始めます。左右何れかの腕を水面方向に向け、それに視線を合わせることで 水面[浮上]方向の安全を確認します。また この動作は、「SCUBAダイビング浮上時の気道確保」にも通じるものです。

 (注意点)

 ★ 先にも述べた様に マスク着用時の視界は大幅に制限されます。『曲身』『伸身』時と同様に 「顎を上げて上目使い」に水面を見るだけでは、水面[浮上]方向の安全確認は不十分です。

     * 実際《左図》の様に 頭部・後方は死角になります。

   更に「顎を上げない」「斜め浮上」等 すれば、水面の安全確認をじないも同然です。そのため深深度プールのトレーニングでは、しばしば接触・衝突が起こります(大事には至りませんが‥)。これが海ともなると クラゲや釣り糸(その先には当然 釣り針)等、ダイバーに与える影響が増します。

   「垂直浮上」、そして しっかりと顎を上げ、更に上体を後ろに反らすことで、水面[浮上]方向の視界[安全]を確保して下さい。必要とあらば、ローリング[錐揉み]しながら浮上します。

 

 

【フォームの矯正】    

  《左図》の様に手を加えた洗濯メッシュにキックボード(ビート板)を入れ、BCDの様に装着して ジャックナイフを行います。これは 『プロテクションスーツ着用、ウエイトなし』を想定した負荷トレーニングです。

  ラッシュガードの様に浮力を受けない装備でプールワークを行うと 、例え 不安定・不完全なジャックナイフであっても 何とか潜ってしまうので、フォームが崩れ つい自己流になってしまいがちです。そこで 時には負荷(大きな浮力)をかけることで、フオームの矯正を図ります。かと言って プールにスーツを持って行くのは面倒なので、百均の洗濯メッシュに手を加え、プールに常備されてキックボードを利用した訳です。個人専用なら 写真の様な調整用バックルなど使わず、細いロープを結び付けてもよいでしょう。一般的なキックボード1枚の浮力は、約3?です。Cカード『レスキュー以上』のSCUBAダイバーなら、キックボード2枚分(約6?)の浮力に打ち勝って、難なく潜って欲しいところです。

     * 「キックボード2枚分(約6?)の浮力など、スーツ着用時のウエイト量に比べれば大したことはない」と考えてはいけません。何故なら 『曲身』時に 上半身だけで約6?の浮力を受けることになるからです。また キックボードはプロテクションスーツに比べ 水深[水圧]による浮力の減衰が少ないので、一定の負荷[浮力]がダイバーにかかり続けます。この様な状態でトレーニングを行えば、各フォームの矯正に効果覿面です。

     * 「スーツとウエイトの関係」については、

             『ダイバーが装着するウエイト量』 をご覧下さい。

  ちなみに この道具は、「ドルフィンキックの修得」にも大変有効です。

  詳細については、『ドルフィンキック』をご覧下さい。

 

  また キックボード単体を使って、上記【倒立】の完成度を確認することもできます。

  両手でキックボードの真ん中から先端部分を持って 【水面休息姿勢】の後、【倒立】を行います。

     * プールによっては、小型の または 色分けして浮力の異なるキックボードが用意されています。まずは 最も浮力の小さいものからお試し下さい。

  ある一定のレベルに達して[フォームが完成されて]いれは、女性でも 浮力3?のキックボードを持って倒立できる筈です。優雅に安定した倒立ができない場合は、上記の各(注意点)を参照の上 フォームを矯正してください。

 

 

(余計なお世話ですが‥)

  もし スーツ着用時に溺者を発見した場合、その初動は 迷う事無く 3点セット着用での救助であり、ある程度 浮力のある物を持ってイ行ければ幸いです。迅速な行動かつ浮力が求められる溺者救助に際して、ウエイトやSCUBAを装着している時間的余裕はありません。そして 不幸にも到達直前に溺者が沈んでしまい、直下潜降が出来ないからといって ウエイトを取りに引き返す訳にはいきません。(投稿映像が氾濫している昨今ならば 尚のことです)

 

 

                    ☆ ご意見・ご質問等ございましたら、下記アドレスまでお送り下さい。

                                      scuba@piston-diaphragm.com