貴方のレギュレーターの中圧・高圧ホースは、正しい位置に取り付けられていますか? その状態によっては、ホースの劣化やトラブルの原因となります。
ファーストステージのポート(ホースの取付口)配列には、大きく分けて 『放射分配型』と『左右分配型』の二通りがあります。
* この分類方法は、本項説明用です。
?放射分配型
* 尾羽を広げた孔雀の様に、中圧・高圧ホースを放射状に取り付ける、若しくはそれに類するファーストステージ
☆ 器種が異なれば、ポートの数やその間隔も変わるので、これから紹介する取付位置(方向)通りにはならない場合があります。その際は 『本人の使い易さ』や『ホースへの負担軽減』、『全体のバランス』等を考慮して、ホースの取付位置(方向)を振り分けます。
Position 5
エアモニター[残圧計]用高圧ホース
* 高圧ホースを ファーストステージの専用ポート(HP)に取り付けた後、ホースを ヨークスクリュー側から見て 7時 または 8時の方向に合わせます。これは 高圧ホースとタンクが干渉しない位置(方向)を先に決め、これを基点として 各中圧ホースを振り分けるためです。
* この方向を選んだ理由については、下記【解説 1】をご覧下さい。
Position 1
プライマリーセカンドステージ用中圧ホース
* 器材装着者自身が使用するセカンドステージ
* ヨークスクリュー側から見て 2時 または 3時の方向
Position 2
ドライスーツ用中圧ホース
* ヨークスクリュー側から見て 4時 または 5時の方向
* ここには シェアエアセカンドステージ[オクトパス]用中圧ホースを取り付けません。 詳細については、下記【解説 3 または 2】をご覧下さい。
Position 3
BCDパワーインフレーター用中圧ホース
* ヨークスクリュー側から見て 10時の方向
Position 4
シェアエアセカンドステージ[オクトパス]用中圧ホース
* シェアエアを必要とするバディに渡すためのセカンドステージ
* ヨークスクリュー側から見て 8時 または 9時の方向
* この方向を選んだ理由については、下記【解説 2】をご覧下さい。
?左右分配型
* 飛ぶ鳥の翼の様に、中圧・高圧ホースを左右方向に取り付ける、若しくはそれに類するファーストステージ
Position 1
プライマリーセカンドステージ用中圧ホース
* 器材装着者自身が使用するセカンドステージ
Position 2
ドライスーツ用中圧ホース
* ここには シェアエアセカンドステージ[オクトパス]用中圧ホースを取り付けません。 詳細については、下記【解説 3、2】をご覧下さい。
Position 3
BCDパワーインフレーター用中圧ホース
Position 4
シェアエアセカンドステージ[オクトパス]用中圧ホース
* シェアエアを必要とするバディに渡すためのセカンドステージ
* この位置を選んだ理由については、下記【解説 2】をご覧下さい。
Position 5
エアモニター[残圧計]用高圧ホース
* 質の良いホースプロテクターの装着を推奨します。詳細については、下記【解説 1】をご覧下さい。
【注意】
スイベル機能付きファーストステージを 《図B》の様にタンクバルブに取り付けているダイバーをよく見かけます。
スイベル機能とは、『プライマリーを使っているダイバーが頭を前後左右に振る』 『BCDインフレーターを使って給排気を行う』 『バディにシェアエアを行う』等の際に ポート本体を回転させて 『ホースの「引っ張られる感」を軽減する』ためのものです。
* 近年 プライマリー、シェアエア 各中圧ホースに採用されている『ボールジョイント機能』も、同様な効果を狙ったものです。
しかしながら ファーストステージを《図B》の様に取り付ける(以後『方法B』と表記)と、一部の中圧ホースはタンクやバルブに極めて接近 または接触するので、器材メーカーが良かれと思い採用し、ダイバーもその費用を負担して取得したスイベル機能が無力化してしまいます。
何故この様な取付方法が 数多く行われているのでしょうか。
証言(店員)
日本女性の平均身長は 約158cmで、新背丈(しんせたけ)は 約60cmと推定されます。
* スーツ購入の際に測る 首後ろの頚椎点から尾てい骨までの長さ。
これに対して、スイベル機能付きファーストステージを方法Aで取り付けた場合の『頭頂部からタンク底までの長さ』は 10Lスチールタンクで約64cm、アルミタンクで約74cm。この数値は 明らかに日本女性の平均的新背丈を上回っているので、タンク底が遊泳の障害となる。(身長がより低い場合は 尚更)
だから、全長をより短く出来る方法Bが正しい。
反証
対面販売ならば 例え購入者が代理人でも、使用者の身長(新背丈)から先の不都合を推測することは 十分可能です。加えて どの器材メーカーも 少なくとも数種類のレギュレーターを備えていますから、その中から より不都合を緩和できる器種(スイベル機能無しや放射分配型)を顧客に推奨・販売すれば とりあえず一件落着する筈なのですが、何故か現実は‥。
ダイバーとは、そんなにも聞き訳の無い人達なのでしょうか。実は顧客に対して スイベル機能の効果を十分説明していないとか。または 販売担当者に商品知識が無いとか。はたまた 『不良在庫』 『仕入値が安く、利益率が高い』 『店の取扱器種が極めて少ない』等の理由から、販売者は是非とも そのスイベル機能付きの器種を売りたいからとか‥、そんな話も耳にします。それって単なる噂? でも『火の無い所に煙は立たぬ』とも言いますし‥。
* 以前 ある器材メーカーのファーストステージには、天地[取付方向]を示す『BOTTOM SIDE』のシールが貼られていました。器材メーカーは、良かれと考えて採用した機能を潰す様な取付方法を推奨しません。
いずれにしても 方法Bを正当化する理由にはなりません。
では 『ネット通販で、或いは 詳細を知らず[知らされず]にスイベル機能付きの器種を購入して 既にダイビングで支障を来たしている』ダイバーはどうすれば‥、その際はスイベル機能が無力化することを承知の上で、方法Bを採用するしかありません。
しかしこの様な場合でも、方法Bは単なる『苦肉の策(対処法)』であり、スイベル機能を生かせる方法Aこそが『スタンダード(標準)』と考えます。
【解説】
1 エアモニター[残圧計]用高圧ホースの取付位置
放射分配型のPosition 4や左右分配型のPosition 5に高圧ホースを取り付けると、計器コンソールの荷重がホースの付け根(かしめ部)に大きく作用するので、ホースの劣化を助長します。
元来 ホースは柔軟性に富む素材(合成ゴム)を用いて 真っ直ぐに作られています。これを曲げると、《左図》の様に その外周側には伸ばす力(青矢印)が、内周側には縮める力(赤矢印)が加わります。
外周側は 合成ゴムの特性として均等に伸びますが、内周側は均等に縮むことが出来ないので 『皺』になります。この極端なホースの曲げ伸ばしを繰り返す内に 『皺』は『亀裂』となります。
影響は被覆だけに止まらず、気密を保持する内部にまで及びます。
* ホースの付け根に近い部分では、この状態が顕著に現れます。
* 耐圧強度が要求され、中圧ホースよりも太くて硬い高圧ホースで多く見られる現象です。
* Position 5 または 止むを得ずPosition 4に高圧ホースを取り付ける際は、質の良いホースプロテクターの装着を推奨します。
* 参照 『レギュレーターの収納・保管』
2 シェアエアセカンドステージ[オクトパス]用中圧ホースの取付位置
《タンクのイラスト》は シェアエアの供給者を、《写真》は 相対<2>、右斜め相対<1>、並列<3>した受給者が受け取る 「右側装着されたシェアエア用セカンドステージ」の状態を表しています。
ご覧の通り、マウスピースをいつも通りに銜えることが出来るのは 右斜め相対<1>の時のみです。
* 右側装着したセカンドステージのマウスピースをいつも通りに銜えた受給者(右斜め相対<1>)が供給者と相対するためには その中圧ホースをS字状に曲けねばなりませんが、中圧ホースには この状態でバディ間の距離を保つだけの十分な長さがありません。
+ プライマリー・セカンドステージの中圧ホースは 70〜72?しかなく、これを受給者に渡した場合、バディは身動きがとれない程に接近してしまいます。
* 右側装備で バディ間の距離を保ちつつ相対するには、受給者がマウスピースを <写真3>の様に銜えねばなりません(=上下反転)。
この様に右側装備では、バディは十分な間合いをとって相対することも、また いつも通りにマウスピースを銜えて並行することも出来ず、結果 バディシステムの基本である Side by side を維持することが出来ません。
* sherwood デュアルオクト、Bism 全般、DIVEWAYS オクトパス6 等の様なセカンドステージを使用すれば 確かに右側装備でも相対・並行が可能ですが、これらを使用する際でも左側装備が基本です。何故なら 一部器材のためにカリキュラムの変更を行うことは、ダイビングに混乱を招き、『事故』を誘発する虞があるからです。
左側装備の供給者が 相対するバディにシェアエアを行う際、供給者は 自身の左肩(首の左横)に中圧ホースを通します。これが中圧ホースの長さ(約90?)を最大限に生かしてバディ間の距離を保つ最善の方法です。『放射分配型では Position 4が最適な位置』と言えます。
* Position 5では 中圧ホースの迂回が大きくなり、その長さを十分に生かすことが出来ません。
* 左腋下に中圧ホースを通すと 迂回が大きくなるので、バディは極端に接近します。すると 『双方共に動きがとり難くなる』 『マスクによって制限されている視野は バディの姿が大半を占めるので、更に狭まる』等、様々なトラブルの原因となります。
3 ドライスーツ用中圧ホースの取付位置
取付位置は右?左? 本項が3番目に明記されていることからもお分かりの様に『残りもの』、つまり 右側となります。
そして 『シェアエアセカンドステージ[オクトパス]を装備していない』 または『オクトパスインフレーターを装備している』場合も、同じく右側取付を推奨します。理由として‥、
* 水面・水中でのBCD脱装は、呼吸確保の点(最後までレギュレーターを銜えていたい)から 左アームホールの開放(BCDを体の右側に移動させる)が基本。
* 左側取付の場合、給気バルブへのホース接続時に 高圧ホースを巻き込む虞がある。更に このことをダイバー自身が全く想定していない。
* 上記事象が起きた場合の回避行動としてのバディチェックが、現状では殆んど機能していない。
等が挙げられます。
ホースの取付け・取外し作業に際しての注意点
☆ ホースの頭のサイズは メーカーにより若干異なるので、それに合致した工具を用いて下さい。
* 作業に伴い 工具を取付ける部分。「ボルト、ねじの頭」
* 器材の金属部分の多くは、黄銅で作られています。黄銅はスチール合金に比べ軟らかく、外力により変形し易い金属です。
☆ 取付の際は、あまり強く締め付けないで下さい。
* 締め過ぎは ねじの変形を招き、時に外れなくなる場合もあります。
* ホースはO-リンブを用いて気密を保っています。強く締め付ける事で気密を保っているのではありません。
☆ 気密用O-リングに ゴミや埃がつかない様に注意して下さい。
万問答集『什麼生、説破(そもさん、せっぱ)』に寄せられた問いにお答え致します。
そもさん!
A 先日 伊豆海洋公園で、エアモニターをレギュレーターの右側に取付けているダイバーを見かけました。そうすることには、何か理由(利点)があるのでしょうか?
B 私のレギュレーターも エアモニターを左右どちら側にでも取付けられるようになっていますが、何故 圧倒的に左側に取付けているダイバーが多いのでしょうか?
せっぱ!
A 現在 ファーストステージの高圧ポート(ホースの取付口)は、高圧ホースを左右どちら側にでも取り付けられる構造になっています。
* ’80年代初頭あたりまでは、高圧ポートが右側にしかないファーストステージが 特定の器材メーカーに限らずありました。
例えは カメラ・ビデオ撮影の際、全ての計器類が集約されているのであれば、 『ゲージコンソールの右側装着』は有効です。何故なら 常に左手で撮影待機姿勢を取り続けることで、好機を逃すこと無く安定した映像の撮影が可能となります。
* 加えて カメラ・ビデオの各種操作ボタンは、主に 右側にあります。
そして BCDの給排気(浮力調整) および 各種計器類(残圧、水深、無限圧潜水時間、方位 )の確認作業 等は右手だけでも十分に行えます。
* エアトリム(mares)、i3テクノロジー(AQUA-LUNG)、フライトコントロールシステム(Cressi-Sub)等のインフレーターホースレス・タイプのBCDは 右手での給気(ボタン、レバー操作)が容易ではないので、この限りではありません。
ゲージコンソールを左右どちらに取り付けるかは、シェアエアセカンドステージ「オクトパス」とは異なり、直接 バディやチームに影響を及ぼすものではないので、各講習が終了した時点で 本人が行うダイビングのスタイルに応じて変更しても 何ら問題はありません。
* 但し 講習中やテクニカルダイビングは、その限りではありません。
B 『ゲージコンソールを左側に装着する明確な理由が見当たりません』 というよりは、『明確な理由の基に ゲージコンソールを左側に装着しているダイバー(インストラクター)がいない』といった方が正しいかも知れません。
ゲーシコンソールを左側に装着する理由として 『プライマリーセカンドステージのリカバリー(以後 リカバリー と表記)』が挙げられます。
* 目視に頼ること無く 確実にプライマリーセカンドステージを回収・確保すること[方法]。
これは、『ゲーシコンソールを右側装着すると、リカバリーの際に中圧ホースと高圧ホースが交差してトラブルの原因になる』 ということを意味します。
(反証) 高圧ホースの長さが 約82?なのに対して、プライマリーセカンドステージの中圧ホースは 約72?です。仮に ゲーシコンソールを右側装着して リカバリーの際に2本が交差しても 解くのが難しい程に絡み合う訳では無く、また ホースの全長差から プライマリーセカンドステージがケージコンソールよりも先に右手で保持されるので、そのマウスピースを速やかに銜え、呼吸を確保した後に交差を解消すれば 何ら問題はありません。
また 1回のダイビングにおいて、リカバリーがどれ程の頻度で行われるというのでしょうか。ただそれだけのために 『ゲージコンソールを左側に装着する』というのでは、あまりにも説得力に欠けます。
実際のところ プールや海での講習やファンダイビングにおいて 『適切な リカバリー』が行われている光景を見たことは殆んど無く、また インストラクタ−自らが器材装着後に 正しいリカバリーを行っている姿を見かけたこともありません。因って この意見は、『圧倒的多数のダイバーがゲーシコンソールを左側に装着している理由』には当たらない と考えます。
* リカバリーをしっかり教えていない講習の方が、『ゲージコンソールの右側装着』よりも 余程 トラブルの原因になります。
実のところ私は 今でこそゲージコンソールを左側装着していますが、かつては右側でした。当時の高圧ホースはスチールラジアル構造(金属糸をチューブ状に編み込んで耐圧強度を確保)だったので 曲げによって劣化し易く、現在の様な3連コンソール(残圧計、水深計、コンパスの一体格納)には不向きで、コンパスは左手首に付けていました。
* 当時の高圧ホースは陸上用の流用であり、また 度重なる曲げ伸ばしに対応するものではありませんでした。更に 劣化した被覆から海水が浸透して 内部(スチールラジアル)が腐食、屡 破裂する光景を目にしたものです。
* 右側装着の利点として、浮上時 右手で高く掲げたゲージコンソールを見ることで、1ダイバーの気道確保、2視線を下げて同水深のバディを確認、3視線を上げて水面方向の安全確認、が同時進行的に行えます。
* 右側コンソールに残圧計と水深計、左手首にコンパスを付けていると、ナビゲーション中の 『右手にナイフを持っての補助推進、距離計測』 の際には、残圧・水深の確認が難しいという欠点もありました。
高圧ホースが現在の様な合成コム・合成繊維製になると ゲージコンソールへのコンパス格納が可能(三連コンソール)になり、前記の欠点を解消できる 左側に移動しました。
* 先に述べた『明確な理由』とは、この様なことを言います。
そもさん!
運搬時にレギュレーターの各ホースを外してはだめですか?
せっぱ!
確かに各ホースを外せば 収納・運搬に際して レギュレーターをよりコンパクトにまとめることは出来ますが、現地において 「他のメンバーには無い」組立の手間が必要となります。到着して荷物を解いてから エントリーやボート乗船までの間、常に時間の余裕があるとは限りません。時間に追われれば 精神的余裕を失い、結果「トラブルがトラブルを招く」負の連鎖に陥りるリスクを高めてしまいます。
* ホースの着脱には (出発前の荷造りの段階での)入れ忘れ・(分解後の)置き忘れ、工具の準備・管理、Oリングの汚れ防止、締め忘れは無いか 等、付帯するものが数多くあります。
ダイビング前に『余裕』を失う虞のある行動は控えるべきです。利便性の追求は、自身に『余裕』をもたらす範囲内で行って下さい。
☆ ご意見・ご質問等ございましたら、下記アドレスまでお送り下さい。