『スクーバプロ エアワン SCUBAPRO AIR1』
(セカンドステージ バランスバルブの基本構造と原理)
懐かしいレギュレーターを預かった。未だ現役というのが素晴らしい。発売開始年に関する資料が手元に無いので 確かなことは言えないが、1981年のカタログには載っている。このシリーズは後に、D300(’87〜)、D350(’91〜)、D400(’94〜) と続いた。
【AIR1 の特出すべき点】
1 この時代 既に、セカンドステージにバランスバルブを採用していた。
バランスバルブについては別記があるのだが、AIR1 はその原理を分かり易く説明する上での良いサンプルなので、ここに改めて紹介する。
セカンドステージ内のバルブには、スプリングの張力[↓]と 中圧空気(ファーストステージで減圧された空気)の圧力[↑]が 相対する様に作用している。通常は中圧空気の圧力を上回るスプリングの張力によって バルブが閉じているので、中圧空気の放出は抑えられている。《図A》
ダイバーの吸気によってダイアフラムが引き寄せられると、梃子の原理を利用したデマンドレバーを介してバルブは開くので、中圧空気の放出が始まる。
つまり スプリングの張力[↓]の強弱は、ダイバーが吸気の際に感じる抵抗(吸気抵抗)に 少ながらず影響を与えている。もし単純にスプリングの張力を弱くすれば 確かに吸気抵抗を減らすことは可能だが、それでは中圧空気の遮断が出来なくなってしまう。
そこで《図B》の様に バルブをピストン状にして、『スプリングの張力と相対している中圧空気の圧力の影響を抑える』 (『中圧空気の圧力を、その放出を抑えているスプリングの補助機能として利用する』) ことが出来れば、より小さなスプリングの張力[↓]でも 中圧空気の遮断が可能になる。スプリングの張力が小さければ、バルブを開くために必要な力も小さくて済む(=ダイバーの吸気抵抗が減る)。
2 エクゾーストバルブ(排気弁)が付いておらず、その機能はダイアフラム(点線部分)が兼ねている。
通常ダイアフラムは その外周がケース本体に『圧着固定』されているが、AIR1では所定の位置からズレない様に 被せてあるだけで、前者と対比するならば 『浮動型』と言える。ダイバーが吸気を始めると ダイアフラムは引き寄せられるので、その外周はケース本体に密着して ダイアフラム本来の機能を果たす。同じく排気が始まると 外周とケース本体との密着が解かれ、そこから呼気が水中に放出される。
☆ 形(外観)のユニークさは、これらを具現化した結果とも言える。
(但し 画期的な器種である反面、問題点もある)
1 オーバーフロー[フリーフロー]し易くなったので‥、
* 参照 『セカンドステージのオーバーフロー[フリーフロー]』
スプリングの張力が より小さくなるということは、『セカンドステージに衝撃が加わる(ぶつける、落とす)』際に生じる『ダイアフラムの振動という小さな力』でもバルブが簡単に開き、オーバーフロー[フリーフロー](意図せぬ中圧空気多量放出)が起こり易くなる。
* 本来この様なことは ダイバーがレギュレーターの取扱に細心の注意を払えば済む(ぶつけない、落とさない)ことであり、仮に オーバーフロー[フリーフロー]が起きても 適切な対処方法を知っていれば 何ら問題はない。しかしながら それを浸透させるためのシステム(講習)がその役目を果たしていない。
このままでは、購入者からショップやメーカーに クレームが殺到するであろうことは 容易に想像できる。そこでメーカーは、フェイス部分に 上下方向へのスライドスイッチを付けた。この機能は 通常(マウスピースを銜えていない状態)では スイッチを下げて(『↓PRE DIVE』:内部にあるロッドを介して)ダイアフラムの動きを制限することで オーバーフロー[フリーフロー]を抑制する。そじて ダイビング中(マウスピースを銜えてから離すまでの間)は、スイッチを上げる(『↑DIVE』:ロッドを無力化する)ことで、ダイアフラムの可動制限を解除し、本来の『吸気抵抗が少ない状態』に戻す というものだ。
* ダイバーがマウスピースを銜えている間は、その行為自体がオーバーフロー[フリーフロー](意図せぬ中圧空気多量放出)の抑制行動となっている。
2 誤嚥する可能性が‥
《左写真の様に》水底を真上から見る様な状態で呼吸をしても 何ら問題は無いのだが、ここから更に顎を引くと ケース内に水が入って来る。倒立やヘッドファースト潜降においては 多量に浸入するし、この時 パージボタン(写真内『Sマーク』)によるレギュレータークリアを行っても 排水は出来ない。
* マススピースを銜えた状態で、空気放出口が排水口より上位にあるからこそ 排水(クリア)[水が押し出される]が可能となる。逆転すれば、水は排出されない[押し出されない]。
* 止むを得ず 倒立やヘッドファースト潜降を行う際には、セカンドステージを上下反転させて銜えるしかない。
原因は、エクゾーストバルブを兼ねているダイアフラムの大きさにある。エクゾーストバルブとしては あまりに大きいので、『呼気(排気)』 或いは『ケース内にある空気の浮力』によって ダイアフラムのスカート部分が振動する(捲れ上がる)際に ケース内に水が入る と考えられる。
* まるで ストラップの締め付けが極めて緩いマスクにおいて、フレーム上部を押さえずに マスククリアを行うと、マスク内部に水が入ってくるのと同じ様な現象と言える。
* 通常のセカンドステージでは エグゾーストバルブが遥かに小さくので、『それら』の影響を受けることは無い(=水は入って来ない)。
実際 メーカーもその辺は承知していたらしく、対策としてダイアフラム外周の一部を強制的に密着させてはいるが、この様な結果となっている。
* 後継器種では この点を考慮してか、より小型のダイアフラムを使っている。
『問題点』等と言ってしまったが、SCUBAPRO AIR1 は決して不良品ではない。メーカーの創意工夫が見て取れるし、その努力は高く評価したい。ただ ダイビングの裾野が広がり、誰もが楽しめる娯楽ともなれば、全てのダイバーに ある一定以上の知識・技能を求めることの方が無理というもの。
* オーバーフロー[フリーフロー]の対処法等の知識を授けてくれる受け皿(教育機関)も無い。
だから フェイスにスイッチの様な『上げ膳据え膳』的機能を付けざるを得ない。しかし これは、メーカーにとっては新商品開発・販売のチャンスにもなる。事実 訳の分からない機能を付加した器材が、多数現存している。
だか この頃から、メーカーが打ち出す新基軸が 何となく変な方向を向き始めてしまった様な‥。
アメリカのオークションサイトには AIR1 が多数出品されている。(未だに根強い人気があるのだろうか?) 同じく メンテナンスキットも安いものでは$25.00位からあった。ただ情報が少ない上に 購入するとなると‥。
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