『レギュレーターをセットしてタンクのバルブを開けたら、セカンドステージに衝撃を加えた(落とした、ぶつけた)わけでもないのに オーバーフロー[フリーフロー](意図せぬ中圧空気の放出、出っ放し)が始まった。』
この様な場合は 「ダイバーの取扱不備」ではなく、レギュレーターの不具合が原因です。ここでは その発生メカニズムを説明致します。
【ファーストステージの不具合】
ピストン式《左図》、ダイアフラム式《左下図》、いずれのファーストステージにおいても、中圧室内の圧力が『スプリングの張力+周囲圧(大気圧)』よりも高くなると、ピストンが移動してバルブシート(HPシート)とオリフィス(高圧空気が噴流して出る開口部)が密着し、中圧室への高圧空気の流入が遮断されます。《図A・B》
* この時の中圧室内の圧力が、一次減圧値です。
* ファーストステージの作動原理の詳細は、こちら。
ファーストステージのバルブシート(HPシート)には 耐腐食性・耐摩耗性に優れた合成樹脂が使われていますが、気密のため オリフィスとの振動系密着が長年に亘り続けば、表面に変形や破損が生じます。こうなると 中圧室への高圧空気の流入を遮断できないので、一定に保たれていた一次減圧値は上昇します。
* 材質や厚みよって、発生し易いもの・し難いものがあります。
セカンドステージのデマンドバルブには 「下流側に開く」ダウンストリーム型《図A》が使われており、中圧空気(一次減圧値)はスプリングの張力[→]によって その放出が抑えられています。
しかし 一次減圧値が規定値を大きく上回れば、スプリングの張力[→]を押し退けて オーバーフロー[フリーフロー]が起こります。
※(ちなみに・・)もし セカンドステージのデマンドバルブに 「上流側に開く」アップストリーム型《図B》が使われていたら、上昇する中圧空気には逃げ場が無く、終には中圧ホースが上昇する圧力に耐え切れず 破裂する場合もあります。
* この様な理由もあり、現在 セカンドステージのデマンドバルブにアップストリーム型《図B》は使われておりません。
【セカンドステージの不具合】
セカンドステージのバルブシート(MPシート)には、シリコンや合成ゴムが使われています。
ダイバーが吸気している時を除き、バルブシートは スプリングの張力[→]により 常にオリヒィス(中圧空気が噴流して出る開口部)に密着して 中圧空気の放出を抑えています。
* 保管中も バルブシートとオリフィスは密着し続けています。
そのため 如何に弾力性に富んだ素材を用いようとも、バルブシートは『ペットボトルのキャップ内にあるパッキンと同じ様に』円形の溝状[オリフィスの形状]に凹みます。そして‥、
1. 凹んだ部分では 素材本来の弾力が損なわれているので、気密性が低下して‥、
2. バルブシートの表面が凹むと、その分 ピストン(作用点)はオリフィス側に移動する《→》ので、連動するデマンドレバー(力点)は 『ダイアフラム側に移動します《↑》』。
* バルブシート表面の凹みが極僅かでも、デマンドレバーは「梃子の原理」を利用しているので、その力点はダイアフラム側に相当量(バルブシート表面の凹みの優に10倍以上)移動します《↑》。
ダイアフラムは柔らかいので、ある程度までなら デマンドレバー(力点)の移動量を許容します。しかし 経年により 更にバルブシート表面の凹みが増せば、結果的に「ダイアフラムがデマンドレバー(力点)を押す」ことと同しなので、ピストン(作用点)が移動《←》してバルブが開き‥、
3. セカンドステージを保持せずに潜る[水底を引き摺り回す]と、砂 等の異物をバルズシート表面の凹んだ部分に噛み込んで‥、
4. セカンドステージを保持せずに潜る[水底を引き摺り回す]ことで A室内に砂が大量に侵入。これにより ダイアフラムがB室側に押されるので、デマンドレバーを介してバルブが開き‥、
‥という訳で、オーバーフロー[フリーフロー]が起こります。
* セカンドステージの作動原理の詳細は、こちら。
(ちなみに‥)
中圧ホースを接続していないオクトパス・インフレーターとは、左図の様な状態です。こんな時 「強い風が吹いて砂が巻き上がった」、或いは ダイビング終了後 「異物★が浮遊・沈殿する水槽での濯ぎ洗い」等により、異物★が侵入して バルブシートとオリフィスの間に挟まれば、オーバーフロー[フリーフロー]が起こります。
* 侵入した異物★はデマンドバルブの作動(中圧空気噴流)により B室内に放出される力を受けるので、一般的なセカンドステージに比べ 異物★がバルブシートとオリフィスの間に挟まる確率が高いのです。
これはオクトパス・インフレーター全般に言えることですが、特に SCUBAPRO AIR2 のプラグは 他のメーカーのプラグよりも大口径なので、その確率は高まります。
SCUBAPRO AIR2 の中圧ホース取付用プラグには ダストキャップが装備されています。このためのキャップです、常用しましょう。
セカンドステージの中には、吸気抵抗調節機能の付いているものがあります。《左図赤丸》
* スクリューを回すことで、一定範囲内に限って スプリングの張力[→]の強弱を調節し、吸気抵抗を可変する機能です。
上記1、3の事例であれば、これを使って ある程度までのオーバーフロー[フリーフロー]を抑えることは可能です。
* スプリングの張力[→]を増すことで バルブシートとオリフィスの密着を一時的に高める方法。
しかし 張力[→]が増せば オリフィスによるバルブシート表面の凹みは更に深くなります。また 張力[→]を調節できる範囲にも限りがあるので、この方法は あくまでも一時凌ぎに過ぎません。
(注意)
セカンドステージに付いているスクリューの全てが 吸気抵抗調節機能用[スプリングの張力[→]調節用]という訳ではありません。詳細については、お手持ちの取扱説明書やカタログにて ご確認下さい。
* 吸気抵抗調節機能用ではないスクリューとは、冒頭に挙げた『ケースA』 を抑えるためのものです。
+ フラップを動かして、気流を変える機能。
☆ ご意見・ご質問等ございましたら、下記アドレスまでお送り下さい。